1.宇津美万吉の憂鬱

4/32
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ
 目が覚めたのは、扉を叩く乱暴な音でだった。  まだ開けきらない目を擦りながら診察室を出ると、カウンターの向こうの玄関に、自動ドアを叩く男の姿があった。  万吉は小走りで自動ドアへ駆け寄る。自動ドアと言っても、これは壊れていて、隙間に指をねじ込んで開けなくてはならなかった。 「ど、どうしました……?」  男は鋭い目で、万吉をじろじろ見つめる。 「診療所ができたって聞いたんでな。おめえが医者か?」 「は、はあ、そうです」  息がおかしなところに入って、上手く返事ができなかった。男は、「ふうん」と口を鳴らしてから言った。 「じゃ、俺を診察してくれねえか」 「……え」
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!