1.宇津美万吉の憂鬱

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 目が覚めたのは、扉を叩く乱暴な音でだった。  まだ開けきらない目を擦りながら診察室を出ると、カウンターの向こうの玄関に、自動ドアを叩く男の姿があった。  万吉は小走りで自動ドアへ駆け寄る。自動ドアと言っても、これは壊れていて、隙間に指をねじ込んで開けなくてはならなかった。 「ど、どうしました……?」  男は鋭い目で、万吉をじろじろ見つめる。 「診療所ができたって聞いたんでな。おめえが医者か?」 「は、はあ、そうです」  息がおかしなところに入って、上手く返事ができなかった。男は、「ふうん」と口を鳴らしてから言った。 「じゃ、俺を診察してくれねえか」 「……え」
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