3.もう一人の誕生日

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***  がたごとと乱暴な音が響いて、万吉はうっすらと目を開いた。直後耳元で、がたんと大きな音が響いて、同時に眩い光が目に突き刺さる。 「こんなところにおったのか」  万吉はまだぼんやりしたままで、上手く頭が働かなかった。 「おい、起きろ。世話かけさせるな、ったく」  次の瞬間、口元に鋭い痛みが走った。 「むぐあ!?」  その衝撃に、漸く意識が覚醒し、万吉は目を見開く。そこに映し出されたのは、自分の顔を覗き込む老人の顔。 「ご……吾郎さん……? なんでここに……」 「ふんっ、だーれがお前なんかを心配しとるというんだ。頼まれたんで、嫌々な」  そんな彼のポケットからは、一万円札がちらり、顔を覗かせていた。 「随分とみっともない格好だな、まるで芋虫だ」 「人の気も知らないで……」 「少しは反省したか?」  吾郎の言葉にどきっとして、万吉はたちまち黙り込んだ。 「散々だったねえ」  入店のベルと同時に、一がこちらを振り返って言った。  カウンターに腰かけた一の向こうでは、双葉がグラスを磨いている。 「もう大丈夫だよ、帰っちゃったから」  一の傍には、あのコンパクトが置かれていた。手を伸ばし、蓋を開く。鏡の中を覗き込むと、そこにはもう一人の自分が映っていた。  あの時のような勝ち誇った眼差しはない。いつもの覇気のないつまらない表情だ。  今までどんな気持ちで、鏡の向こうから、自分の真似をしていたんだろう。 このまま入れ替わり続けることだってできただろうに……。 「彼、言ってたんだ」  万吉の思いを感じ取ったように、一が言った。 「君の願いを叶えてやったんだって。ようく思い出してごらんよ」  俺の願い……あの河川敷で……。 『少しの間でいいから、一人にしてくれないか』  まさか……少しの間って……。 「……あのさ、あの時のケーキ、まだあるかな」  一と双葉は顔を見合わせてから、万吉に向かってにっこりと頷いた。
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