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元則が腰の痛みを訴え始めたのは、ある森の開拓を任された頃だったそうだ。
「ゲンさん、あの祠を壊したせいだと思います……」
よくある話だ。工事の途中で突き当たった祠を、ゲンさんこと元則さんは、周りの反対も聞かずに壊してしまったのだという。なんとなく、「迷信にきまってるだろう!」と彼が怒鳴る様子が目に浮かんだ。
「あれは、この町で命を落とした落ち武者を祀っていた祠だったんです」
「なるほどね……」
「……全然驚かれませんね?」
どきっとして思わず顔を上げた先で、不思議そうにこちらを見つめる仁と目が合った。
「こんな話をしたら、いい大人が、とか、てっきり仰られるかと……。もしかして、そういうの、全く信じない感じですかね」
と不安そうに言うので、そこで万吉は漸く、考えて言葉を発した。
「ま……そういうこともあるんじゃないですか。僕は知りませんけど」
ところが仁は、幽霊の存在を否定されなかったのが嬉しかったのか、その話を広げ始めた。
「私はね、幽霊って信じてるんですよ。だって、色んな話があるでしょ? 私は一度も見たことないのになあ」
「……ごちそうさまでした」
先に完食した万吉は、すぐさま立ち上がる。
「あっ、皿は私が洗っときますんで、結構ですよ」
別にそんなつもりはなかったが、万吉は軽く会釈を返した。
「お腹が空いたら、いつでも言ってください。食事作って待ってるんで」
ここへの配属が決まったとき、食事・住居付きと言われていたが、そういうことだったのか。
そういえば、住むところは……?
「あと、寝るところも診療所じゃ、なんでしょう。先生のお部屋、ちゃんと用意してますから」
「……というと?」
「この家の二階です」
……まあ、ご厚意には甘えさせてもらうべきだ。
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