あの日のバカを治す薬

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「バカっていう方がバカなんだぞ」  いかにもバカっぽいせりふを吐くようになったもんだ。入部したての頃はもっと賢そうで人に毒すら吐いていたのに。まぁ今でも毒吐いて周りに迷惑かけているが。僕の前だけでこうしたポンコツな一面があらわになる。ということはあれか。 「もしかして、僕もバカだってことか」 「も、とか言うなよ。お前だけだヴァーカ」  唇を前に突き出して、女の子らしからぬ顔で僕を罵倒してくる。もう恥もへったくれもなくなってきている。 「お前、そんなこと他のやつにもしろよ。きっと人気者になれるぞ」  昔から面白い奴は人気も載って相場が決まっているからな。ほら、毒舌芸人とかリアクション芸人とかテレビに引っ張りだこだし。 「人気者とかなりたいわけじゃないし」 「そうか? お前毎日寂しそうに一人で飯食ってんだろ」 「見てんならこっちこいや」  あん? とヤンキーよろしくの距離の詰め方で胸ぐらをつかまれる。 「おう? あんちゃんや、われどないしよってにから」 「なんとなくでしゃべんなよわけわからんぞ」  僕の胸ぐらを捕えていた手を掴んで引っ張る。案外素直に取れて少し驚いた。前に捕まれた時は伸びるのを心配するくらいしつこかったのに。 「……うん、やっぱり私、まだバカだったわ」 「あ、うん、え? 急にどうした」 「何でもない!」  つかんだ手を振りほどかれてそのまま身体ごとあっち向かれる。 「バーカ」  最後に首だけ横向きで、あっかんべーされる。そしてそのままかばんを引っ掴んで科学室から出て行ってしまった。 「……僕も本当にたいがいに、だな」  ふぅと脱力して椅子に腰かけた。肩肘ついて顔を覆うように手を当てる。頭は痛くないし鼻水も出ない。のどもいたくなければ身体もだるくない。なのになぜこんなにも顔を触ったら熱いのか。  今まで何もない風を装っていたが、もうそろそろ隠すのも限界かもしれなかった。二年も一緒に部活動をしていると、時間の蓄積に比例して僕たちの仲も多少良くなる。若干のよそよそしさを残した去年とは違い、今年の一年はより距離が近づいたように思う。いい意味でも、悪い意味でも。それがもう、切れそうになっている現実がすぐそこまで迫っていた。
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