貴方の悪夢引き受けます

15/53

18人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
「お名前は?…言ってない、分からない…。そうですか、えぇ、えぇ…はい………」 受話器片手に佐藤は頷きながら話しを聞いていた。 「……最後にもう一度お尋ねしますが、本当に会った事はないのですか?…ないのですね、分かりました。ではまた後ほど」 ようやく電話を終えた時にはだいぶ太陽が昇っていて 真っ暗なリビングのカーテンの隙間から眩しい光りの一本線が覗き込んでいた。 佐藤はその光りの線を黙って少しだけ見つめた。 「にゃあ?」 ねぇ、さっきの電話相手って誰だったの?とでも聞いているのかリビングのカーテンを開けに向かった佐藤の後をミケはとことこついて来た。 カーテンを開け、ついでに窓も開けるなりまだ少し肌寒い風を浴びて佐藤はちょっとだけぶるっと身体を震わせた。 「春の匂いがするけどやっぱりまだこの季節の朝晩はちょっと寒いね」 「みゃ?」 「うん?あぁ、春の匂いって、何て説明したら良いのかな…?えっと…ちょっと青臭いって言うか…うんちょっと待ってやっぱ違うかも…花の香りがするって言うか…でもやっぱ草っぽい匂いの方が強いかな?う〜んと…」 「…にゃあ……」 全くさっぱりキミが何を言ってるのかよく分からないよ。もしミケが人語を話せていたら目の前で腕を組んでこれでも一生懸命考えながら話してる佐藤に向かってきっとそうきつくつっこんでるに違いない。 話し飽きたミケがくるっと後ろを向いてソファーの上で一人遊び初めてしまったのを見て、佐藤は「まだ話し終わってないのに…」とちょっと頬を膨らませた。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加