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「桜の花が満開でとても綺麗な場所に私は一人ぽつんと立っていました。春風に舞う桜の花がやけに美しく見えて思わず見惚れていたら『こんにちは』と彼女は突然私の前に現れました。亡くなったとは聞いていましたが私だけは友人の彼女の顔を知りませんでした。ですから、最初桜の花吹雪の中に現れたその女性が誰かさっぱり分からなくてとても戸惑ってしまいました。彼女は私の近くには来ようとしませんでした。桜の木を挟んだ少し向こうで桜色のワンピースを着て無表情で立っていました。そして彼女はしばらく私の方を見た後でこんな事を伝えてきました。『私は殺されたんです』と。誰にとは教えてくれないまま、彼女はそれだけ言うとあっという間に消えてしまいました」
「友人の恋人の顔を知らないのに何故夢に現れたその女性が友人の恋人だと分かったんです?」
「夢を見た後、次の日仕事を終えた帰りにたまたま鉢合わせた友人と軽く食事をする事になって、その時に友人が持っていた携帯の待ち受け画面に友人と顔をくっ付けて笑っている彼女をたまたま見つけたんです。だから私の夢に出て来た彼女はこの人の大切な方だったんだと知りました」
青年は「少し失礼」と言うと、デスクの上に置かれたままになっていたマグカップに入っていた冷めたコーヒーを ずずっ と一口飲んだ。
「花粉症でして、薬の影響か喉が乾くんですよね」
「気持ち、分かります」女は頷いた。「私の母も花粉症でいつも喉が痒いだの乾くだのなんだのって言いながらがばがばお茶を飲んでいますから。…マスクをされてたのはそのせいだったんですね」
「えぇ、まぁ…」
青年は苦笑いするとマスクを着け直した。もちろんマスクも黒色だった。
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