貴方の悪夢引き受けます

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 佐藤の家の中に入るとリビングの奥の方で 「三千三百二…三千三百三……」うんたらかんたら… げっそりになりながら綾瀬が背中を丸めて静かに百円玉を数えてる姿が見えた。 その背中が何だか最初に会った頃と比べてだいぶ小さくなったように見えて この仕事やってる人も楽じゃないんだな と高橋はちょっと同情してしまった。 「よぅ、ただいまァ…」白川が申し訳なさそうに声をかけたところで ようやく二人が戻って来た事に気付いた綾瀬がゆっくり振り向いた。随分酷使したらしく綾瀬の目は真っ赤に充血していた。 「…おかーりぃ……とりあえず三千万まで数えといたぜ……ぜーぜー…」 「ぜーぜーって口で言うもんでしたっけ?」 綾瀬の苦労なんて何とも思ってない佐藤が黒いお盆に焼きたての手作りパンを乗せて台所からひょいっと出てきた。 「高橋さん、“黒川”さん おかえりなさい。ブルーベリーパンを作ってみたんですが宜しければいかがです?」 「“白川”だ!誰がてめぇが作ったパンなんて食うかよ。要らねぇよ」 ちょっと美味しそう…。高橋は盆に乗ったパンを見て ゴクッと唾を飲んだ。 「綾瀬さんはいかがです?」 「…おう、一個貰うわ」 まさか綾瀬が頷くなんて思わなかったので白川は どよっ と驚いた。「お前マジかよ!?」 「だってさすがに腹減ったわ」 「わ、私も…」と高橋までパンに手を伸ばしたもんだから白川は 嘘だろ… と頭痛がしてきてソファーにドサッと座り込んだ。
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