貴方の悪夢引き受けます

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青年の目が一瞬どこか喜びを帯びた。でもすぐにいつも通り“ちゃんとお話しを聞く人”の目に戻った。話しをしている女は初めから青年の顔なんかちゃんと見ていなかった、だから彼が今一瞬自分の話しに やっとメインディッシュが出てきた! と手を叩いて大喜びしたなんて事なんて気付かなかった。 「どのような夢だったんですか?」 「…確か……場所は何処かの家の座敷でした」 「はぁ、座敷…貴方のご自宅?」 「それは…さぁ?分かりません。でも時間帯は夜だったみたいで…電気は無くて座敷の中は真っ暗でした。敷き布団が一つ敷かれてあって私はその布団に横になって寝ているんです。天井に黒い染みがあってそれが人の顔のように見えてちょっと怖くて、それでここは何処なんだろう?と思いながらうとうとしていたら私の上に白いモヤみたいなのがボワァと出て来て、それがだんだん人の形になっていって気付いた時には真っ白なモヤで出来た女の人になっていました。髪は長くて少しだけ巻き髪で、唇の左下にほくろが一つありました。そして何でかその女の人は眉を吊り上げて鬼みたいな怖い顔をしてて、だけど歯を食いしばってぼろぼろ泣いていて…。その女の人は私の上を跨って座りながら両手で私の首を力いっぱい締めてきました。夢の中なのに息が出来なくて苦しくなってもう駄目だと思って死を覚悟したら次の瞬間には はっ と目が覚めて、私はちゃんと生きていました」 「目が覚めた、と言うのは現実の方ですよね?」 「そうです。あぁ、夢から覚めたって言えば良かったですよね、ごめんなさい」 「いえ、謝らないでください。…夢を見た日、何か現実で嫌な事があったりしました?」 「いいえ」女は首を横に振った。 「私がその悪夢を見た日は別に疲れていたわけでもなければ何か悩んでいたと言うわけでもないんです。むしろ面白いテレビ番組を観て大笑いして凄く楽しい日でした。それなのにあんな怖い夢を見て…おまけにその次にはあの桜の夢でしょ、何だかただ夢を見ただけとは思えなくなってきて…」 「それで会社(うち)に来たんですね」 「そうです。だってこんな……」 女はようやく青年の目を見た。 「こんな馬鹿みたいな話し、真面目に聞いてくれる人なんて誰も居ないでしょ?居たらそう、きっとその人は私と同じで頭がどうかしてるって皆から笑われちゃう…」
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