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ようやくさっきの女性の姿が小さくなっていった頃に携帯を耳から離してホッと息を吐いて高橋はアパートの方に戻ろうと後ろを振り返った。
だが高橋は振り向いてすぐ真っ青になった。
家主の趣味なのか、広くはないが小さな庭に作られたガーデンスペースに飾られたプランターの中で風に揺れ踊るカラフルなビオラに水やりに出て来ていた全身黒に身を包んだ怪しい家主が白いジョウロ片手に高橋の方を見ていたのだ。
振り向いた瞬間パチリと目が合ってしまったから無視すりゃ嫌な奴と思われてしまうかもしれないと思った高橋は無理矢理笑顔を作ると軽く会釈した。
絡まれたりでもしたら面倒だし、さっさとアパートに戻ろう…。
道路に車が居ないのを確認してアパートに戻ろうと一歩踏み出した時だった。
「あぁ。キミ、班長さんが言ってたお嬢さんか」
高橋はビクッとした。突然声をかけられたからびっくりしたのだ。
「は、班長さん?」
振り向くと「町内会の」と言って男は隣の家を親指で指した。「お隣の小堺さんが今班長やってんですよ」
「…は、はぁ、そうですか……」
「芋臭い女の子が芋臭いおばさんと爽やかな都会の男と三人でこの辺を芋臭い二人は芋臭く歩いてて都会の男は爽やかに歩いてたって言ってました。多分近々引っ越して来る子かもしれないって噂してて」
「芋臭くて悪かったですね」高橋はちょっとむっとして言い返した。
「ここだけの話し。あんまり大声で言えないんだけどお隣の小堺さん近所内でクソ真面目って有名でね、回覧板とか町内会費とか あぁ、あとたまに赤い羽根の募金とか色々、ちゃんと出したり渡したりしないと取り立て屋みたいにして毎日のようにしつこく家にやって来るからそこら辺は気をつけた方が良いですよ。とりあえずそれだけ何とかしてれば後は好き勝手自由気ままに過ごせるんで」
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