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「くっ、もうだめだ…!」
そう思った勇者、マコトは目を閉じて相手の攻撃を思い切りくらおうとした。
これまでの罰が、ついに与えられるのか…
この勇者は、とんだ卑怯者だった。
勇者という名誉を活かし、村人から金を取ったり、あえて貧しい暮らしをしている者から食料を奪ったり。
「俺は何をしても許される。どんなことをしても神や悪魔など見たこともない!」
そんな彼が、どうしてこの洞窟にやってきたのか。
その理由はたった一つ。
この洞窟には村人達が万一の時のために保管している金銀財宝が昔から眠っているという噂を聞きつけたからだ。
それさえも俺のものにしてやる。
彼の度を超えた行いは、日々村人たちを苦しめていた。
死を目前とし、結局宝なんて見つけられなかったな。と苦笑する勇者に、希望の道が開かれた。
まばゆい光に当たりが包まれ、天から声が聞こえてきた。
「そなたに仲間を授けてしんぜよう。たがそやつは見習いじゃ。」
意味深な言葉と共に、まばゆい光は収まった。
洞窟の暗さに目が慣れると、そこには美しい黒髪の美少女が立っていた。
「あ、あの。こんにちは。」
「こんにちはぁ。」
ほわほわとした雰囲気にも勇者は惹かれた。
「あの、また戦闘が終わったら、」
俺のおすすめの花畑を紹介するよ。と言おうとしたが、何かが忘れてはいけないことが頭をよぎった。
戦闘…?
次の瞬間
戦闘中だということを忘れたがゆえに勇者は攻撃をくらい、無様に倒れ込んだ。
「最近の勇者はまだまだじゃな。」
「どう、して…」
無惨にも傷だらけになった勇者を見下すように空から声が聞こえてきた。
「その少女はわしの娘じゃ。最近の勇者は調子に乗っているとの情報が入ってきての?試しにあえて窮地に追い込まれた者に使いをよこしたのじゃ。」
そんな…と弱々しい声をつぶやいてから、だんだんと呼吸が荒くなり、ついに勇者の心音は聞こえなくなった。
「ばいばあ〜い。欲が裏目に出たみたいだねぇ。ざまあみろ。」
先ほどとは思えない性格に豹変した少女は冷たくなった勇者に向かってひたすらに暴言をはきつづけた。すると、今度は上に向かって叫んだ。
「父さん、次はどの勇者の絶望の表情を見に行くのですか?私、もう待ちきれません。」
狂ったような笑顔を浮かべる少女の瞳は闇色に染まっていた。
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