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僕とギューギューとアヤシイ二人
十六時には四方の山に太陽光が遮られて暗くなるようなド田舎・果畑には、コンビニもショッピングモールもない。その名の通り果物畑と田んぼと平屋しかないような閉鎖空間に、牛丼チェーン・ギューギュー果畑店は突如として現れた。
三門亜月、六歳の十二月だった。
「なに、あれ! 新しい怪物?」
幼かった僕は、隣を歩く父の手を引いて尋ねた。暗闇に煌々と輝く「ギューギュー」の文字に網膜を焼かれる。当時「恐竜戦隊ガオ・レンジャー」にハマっていた僕には、突如現れたギトギトと煌めく四角い建物が、ヒーローに倒されるべき人類の敵に見えた。
「あれは牛丼屋だ」
「ぎゅうどんや?」
「牛肉のどんぶり」
「おいしいの?」
父が静かに頷く。なるほど、言われてみれば、店の上部に並ぶ「ギューギュー」という文字の上には、やけにリアルに造られた大きな牛の顔が乗っかっている。ギョロリとした目玉に見つめられて、僕はごくりと喉を鳴らした。
「入ってみるか?」
無愛想に父が言った。汗ばんだ手をぎゅっと握り込んでうなずく。見上げると、父の額に浮かんだ汗がきらりと光った。
硬い表情の親子二人は、怪しくも魅力的な牛丼チェーン・ギューギュー果畑店に吸い込まれていった。
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