後編

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 月日は巡り、僕は大学四回生になった。  まだ将来の夢は見つかっていない。  なるべく大きな企業に勤め、気長に探すつもりだ。  今日、久しぶりに研究室のメンバーで飲みに来ていた。  騒がしい客に埋め尽くされた居酒屋で、僕たちも近況報告に花が咲く。  話題はもちろん就職活動についてだ。 「ミライ、お前はもう内定をもらったんだってな」 「二社ほどね。けど、第一志望の面接はこれからだ」 「俺は、お祈りメールしかもらったことないぜ」 「お前は高望みしすぎなんだよ」  就活帰りの者も多く、一様に真新しいスーツを着ている。  僕だけが、数年前に買ったスーツを着ていた。  奥に座っていた男が、スマホの時計を見せる。 「時間、そろそろやばくないか?」  いつの間にか、終電の時間が迫っていた。  すると、幹事を務める男が怪しい笑みを浮かべる。 「二次会に行く奴はいるか?」  皆が驚いた表情を浮かべる。 「お前は馬鹿か」 「明日は研究の報告会があるだろ」  周囲から呆れた声が上がった。  僕はそれを黙って聞きながら、少しぬるくなったレモンサワーを流し込む。  ふと、狼のような鋭い瞳に見つめられた気がした。  周りを見渡すが、もちろん彼女の姿はない。  結局、彼女は僕の将来に何の影響も及ぼさなかった。  けど――、 「参加してやる」  僕は片手を上げ、高らかに宣言した。  今日も僕は生きている。  今と未来を、全力で楽しみながら。
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