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その後も、セツナに振り回される日々が続いた。
勉強時間は減ったが、僕の成績が落ちることはなかった。
結局、彼女は僕の将来に何の影響も及ぼしていない。
「久我、何ニヤついてんだ?」
「何でもない」
放課後、僕とセツナは屋上で並んで座っていた。
唯一の変化は、口元が緩みやすくなったことだろう。
「お前は、どうして将来のことばかり考えてるんだ?」
「夢がないから」
セツナの問いに、僕はすじ雲が浮かぶ秋空を眺めながら答えた。
「普通、逆じゃねーのか? 夢があるから将来に向けて頑張る」
「いつか夢ができた時、それを目指せる力がなかったら、後悔するだろ?」
セツナは立ち上がり、スカートについた小さな砂をはらう。
「お前のこと、少し誤解していたよ。良い大学に行きたいだけの馬鹿だと思ってた」
「ひどい言われようだな」
セツナはいつもより控えめに笑う。
一緒に過ごすようになり、彼女が悪い奴でないことはすぐに分かった。
僕の将来を邪魔することが、本当の目的でないことも。
命短し彼女は、僕に教えたいことがあったのだ。
けど、彼女の考え方はいささか極端すぎる。
「君に夢はないのか?」
「お前と同じだ。何もないから、この瞬間を楽しんで生きてきた。早死にすると分かったし、この生き方で正解だったよ」
僕は「そうか」とつぶやき、セツナの隣に立った。
彼女は大きく背伸びをしながら語る。
「でも、大学生になってみたかったな」
「どうして?」
「友達とオールするんだ。朝から講義がある前の日にな。だが、講義は絶対に休まない。『私、眠らなくても平気なの』と、周りに見せつけてやるんだよ」
「……馬鹿じゃないのか」
僕が声を出して笑うと、セツナもつられて笑った。
決めた――今度は、僕が彼女の邪魔をしてやる。
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