後編

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後編

 数日後、僕は人気のない図書室で、セツナと向かい合って座っていた。 「久我、この赤い本は何だ?」 「大学の過去問題集だ。今から勉強すれば、君でも入れるかもしれないレベルのね」 「この前話したこと、本気にしたのか? 冗談に決まってんだろ」 「本気だろ」  セツナはたじろいだが、すぐに呆れたような表情を浮かべる。 「もうすぐ死ぬ人間が、大学を目指してどうすんだよ」 「僕だって、五月に死んでる可能性はある。人生何があるか分からない」 「そんな屁理屈が通じるか」 「嫌だと言うなら、『日向にひどいことされた』と言いふらすとしよう」  セツナにとって、何の意味もない脅し。  だが、彼女は狼のような瞳を細め、悩んでいるように見えた。   しばらくして、彼女はわざとらしく両手を上げる。 「降参。やればいいんだろ」 「やっと素直になったか」 「お前に脅されたからだ」    セツナは「あっ」と口を開く。 「受験料と入学金はどうすれば……いや、貯金で何とかなるか」  真剣な表情のセツナを、僕は口元に手を当てて眺める。 「随分と本気じゃないか」 「うっさい」  セツナは机の下で、僕の足を優しく蹴飛ばす。 「私の頭では、きっと合格できねーよ」 「余命わずかな女の子が願った夢なんだ。奇跡が起こるに違いない」 「安っぽいドラマか」  僕とセツナはわずかに目を合わせた後、小さく笑った。
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