後編

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 それから、僕とセツナは将来に向かって勉強を始めた。 「久我、この単語はどう訳すんだ?」 「……中学校で習う範囲だぞ」 「いや、初めて見たな。私、記憶喪失にかかってるのかも」 「授業を聞いてなかっただけだろ」  セツナの学力は、思った以上にひどかった。  だが、頭の回転は悪くはない。  勉強のやり方を知らないだけだ。 「僕が昔使っていたノートを渡しておく。教科書を読むより、早く理解できるはずだ」 「字、下手だな」 「やっぱり貸すのを止めるか」 「よく見ると、味のある字に思えてきた」  セツナは、慌てて僕のノートを受け取った。  彼女は知識をスポンジのように吸収していき、日々成長していった。 「久我、見ろよ。今回の模試で『D』判定に上がったぞ」 「せめて、僕ぐらいになってから喜べよ」 「お前はいつも通りの『B』判定だろ。成長率が大切なんだ」 「合格率の方が大事に決まってる」  季節が一つ進んだ。  薄い雲に覆われた冬空が僕を見下ろしている。  僕とセツナは、初詣と合格祈願をかねて、近くの神社に来ていた。 「何をお願いしたんだ?」 「僕だけでも合格しますように」 「私は二人共合格するように祈ったんだぞ。やり直せ」 「冗談だって」  僕は石畳の参道を小走りで逃げていく。  セツナはゆっくり歩いて追いかけてきた。  最近、彼女の走る姿を見なくなった。  彼女は僕の隣に並ぶと、白い息を吐く。 「久我、やるだけのことはやったよな」 「同感だ。神様に頼むことも含めて」  僕とセツナは、拳をわずかに触れ合わせた。  こうして、僕たちは受験本番に挑んだ。  僕は模試の判定通り、合格した。  セツナも同じく模試の判定通り。  結果は不合格――奇跡は起こらなかった。
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