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「私があれだけ邪魔したのに、よく合格できたな」
「邪魔されてなかったら、首席になれただろうね」
何かが僕の頬をかすめる。
顔を上げると、桜が見頃を終え、花びらが空を舞っていた。
四月、僕は大学生になっていた。
隣を歩くセツナは、高校を卒業してから気ままな毎日を過ごしているようだった。
「今日は、自分の大学を自慢したくて呼び出したのか?」
「ご明察」
僕たちは桜並木を抜け、大学の門をくぐった。
僕は時折立ち止まるセツナを支えながら、キャンパス内を歩く。
路の左右には、高校の校舎より一回り大きな建物が並んでいた。
「ここには、教室科目の講義を行う教室があるんだ。専門科目の教室がある棟はあっち。去年建てられたばかりで、入口のカードリーダーに学生証をタッチしないと入れない」
セツナは僕の案内に、「へえ」と短く答える。
彼女は楽しいような悲しいような、左右非対称の表情を浮かべていた。
僕は今思い出したかのように、口を開く。
「そういえば、合格祝いをもらってなかったな」
「お前、もうすぐ死ぬ奴からむしり取るつもりか?」
「僕は誰にでも平等なんだ」
「どっちが悪趣味なんだか」
セツナは、足元に転がっていた石を蹴飛ばした。
僕は転がった石を追いかけ、振り返る。
「お祝いは、僕の行きたい場所に付き合ってもらうことにしよう」
「どこに行きたいんだよ」
「防音は完璧。冷暖房完備で、ドリンクも飲み放題の場所さ」
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