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5 きみとおしろであったひと
「はーい、次のヒトー」
お城で相談出来るという時読士たちに会うため、僕たちは長蛇の列に並んだ。
ヒトの多さに少し気が滅入りそうだったけど、相談の予約だけなので列は思いの外スイスイと進んで行く。
「これなら意外とはやく順番がきそうだね」
「そうね、でも問題は相談日なのよ」
聞く所に寄ると、相談日は並んだ順ではなく、時読士たちが優先順位を付けて、それにより日にちが決まるそうだ。
まぁそれは仕方ない。
期日のあるものに、相談日の方が後だったら何の意味もない。
だから期日などのあるものが優先されるべきだろう。
「私たちのは特に期日などないから、ずっと後回しされるかもね」
「まぁそしたら、仕方ないね」
「……ホクトはその相談日までどうやって過ごすつもりなの?」
「あ、そうだね……何も考えてなかった」
そう言われて気付いた。
僕は一文無しの根無し草だった。
このままずるずるとカナリアのお世話になり続けるのも悪いし、どうしたものだろう。
「そんな事だろうと思った……仕方ないから「次のヒト、どうぞー」」
カナリアが何か言いかけたけれど、受付のヒトに呼ばれてしまった。
とりあえず後の事は受付が終わってから考えよう。
「まずは受付終わらせちゃおう」
僕はカナリアの手を取って、呼ばれた受付の部屋へ走った。
「あのー僕たち、魔女の契約者を探してるんです」
「はぁ」
受付のヒトは僕たちを一瞥もせず、何やら書類に書き込んでいて生返事だ。
「えっと……だから、他の魔女と契約しているヒトってどうやったら探せますかね?」
「他の……?」
急に受付のヒトががばりと顔を上げて、僕たちを見た。
「あ、はい僕たち魔女と契約して他のヒトたちはどうしているのか聞きたくてっ……痛っ」
受付のヒトの顔がどんどん驚きに染まっていく。
カナリアに脇腹を突かれてちょっと痛い。
それで思い出した。
魔女と契約したヒトもまた恐れられるってカナリアに言われてたんだった。
「少々お待ち下さい」
ガタガタと椅子や机にぶつかりながら受付のヒトが立ち上がって、その後ろにあるドアの向こうに消えて行った。
「ごめん、カナリア……つい言っちゃった」
「はぁ……」
カナリアの方を向いて謝るけど、カナリアは僕に何も言わず大きなため息を吐いた。
「どうしよう、このまま捕まっちゃったりするのかな?」
「まさか……魔女との契約は忌避されるけど、犯罪ではないから捕まったり処刑なんて事はないはずよ」
「……いざとなったら契約者は僕だけって事にするから、カナリアは逃げてね」
なんてやり取りをしていたら、受付のヒトが消えたドアから別のヒトが出てきた。
そのヒトの第一印象は白。
着ている服は受付のヒトたちと似ているけれど、さらに上等そうな白いさらさらとしたローブみたいな服。
そこから見える手や顔や髪も、一度も日を浴びた事がないんじゃないかと思うような白い肌と髪。
そして誰かが精巧に作りあげたような綺麗に整った顔。
「魔女と契約を交わした者が居ると聞いたのですが」
声まで綺麗で、ただその低さで男のヒトだとわかった。
「……あ、はい僕です、魔女と契約しました!」
見惚れてたら、またカナリアに脇腹を突かれた。
慌てて答えたら、つい声が大きくなってしまった。
だけどそのヒトは嫌な顔一つ見せずに頷く。
「わかりました。ではこちらへどうぞ、王がお会いになります」
「え、王サマ?! やっぱり処刑ですか?」
王と聞いて怖い想像しか出てこなくなり、少し泣きそうになる。
そんな僕にそのヒトはふんわり優しく微笑んでくれた。
「安心してください、貴方を害する事はありませんよ。王のただの趣味のようなモノとお考えください」
「あの、それじゃあカナリアと一緒でも良いですか?」
僕の言葉を受けて彼はチラリとカナリアを見る。
ほんの一瞬だけ悲しそうな顔をした気がしたけれど、すぐもとの笑顔に戻った。
「わかりました、では二名の謁見を許可します」
「……ありがとうございます」
カナリアがぺこりとお辞儀をする。
僕もそれに倣う。
このヒトの権限だけで決められるってことは、きっとこのヒトも偉いヒトなんだろうな、と漠然と思った。
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