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6 ぼくたちとおうさまとまじょ
「私は第一級時読士のトキオミと申します。貴方たちを王の間へご案内します」
トキオミと名乗ったヒトが、出てきたドアから中へと僕たちを招く。
中には先程の受付をしていたヒトと同じ格好のヒトたちが忙しそうに働いていた。
そんな中を気にせず彼はスタスタと歩いて行くので、僕たちも置いていかれないようついて歩く。
部屋を抜けて大きな廊下、大きな階段、まわりには高そうな花瓶や絵画などが並んでいる。
ついキョロキョロしながら、はぐれないよう後を追う。
ここではぐれたら、一生お城から出られなくなりそうだ。
「ここでお待ち下さい」
大きくて豪華な椅子のある、やはり大きくて豪華な部屋。
謁見室というものなのかもしれない。
あんまりにも僕たちに似合わない部屋で、いたたまれない気分になりそうだ。
「そろそろ手を離して」
「あ、ごめん……ありがとう」
トキオミが部屋から出て行った後、カナリアが僕に言った。
流石にカナリアと手を繋いだまま謁見する訳にはいかない。
そっとカナリアの手を離す。
そしてカナリアがすっとしゃがんで頭を下げた。
慌てて僕もそれを真似る。
「良い、面をあげよ」
お辞儀をしたままでいると、思ってたよりも幼い声がかけられた。
誰かが入ってきた気配もなかったので、驚いて顔をあげる。
「お前たちが魔女と契約を交わしたという者たちか」
「は、はい、僕です」
十歳くらいに見える幼い金色の瞳と目が合った。
すべてが吸い込まれそうな金色は怖いくらいだ。
幼くもこのヒトが王だと誰に言われずとも理解する。
「隠さずとも良い、二人ともあの人魚の臭いがプンプンしている」
「あら、失礼しちゃうわね」
僕とカナリアの後ろからありえない声がした。
コツコツとハイヒールで床を鳴らしながら、僕とカナリアをぬいて王に近付いていく。
「会うのも随分久しぶりなのに、相変わらず可愛くないんだから」
「余の城に勝手に入ってくる方が失礼ではないのか、人魚」
海で会った時とは違い、魚の尾びれのようなドレスをまとった足のある魔女がいた。
「だってアナタがこの子たちに興味持ったみたいだから、釘さしておこうと思ってね」
「余がどうしようかは余の自由である」
会話からすると、二人は知り合いのようだ。
これなら本当に処刑など処罰はなさそうで良かった。
「二人に危害を加えたりしたら、私も黙ってないから」
「……」
魔女はそう王に釘をさすと、現れた時と同じようにコツコツと僕とカナリアの後ろまで歩いて、消えた。
「……興が醒めた」
王の言葉に張り詰めていた緊張がとけるのを感じる。
このまま何事もなく、王が退出してくれれば終わりのはずだ。
「そこのセイレーンの娘」
「は、はい、カナリアと申します」
いきなり呼ばれて、肩がはねた。
「お前、余のモノとなれ」
「え?」
「何、危害を加えるつもりはない。余がお前を飼ってやる。そのナリでは外でも暮らしにくかろう」
言葉につまった。
あの嫌な視線を思い出す。
このお城で暮らすようになるなら、もう怯えなくてすむ。
その方がカナリアには良いんじゃないかと思ってしまった。
「申し訳ありませんが、お断りいたします」
でもカナリアはきっぱりと断った。
迷いの無いその顔はとても綺麗で、僕は自分の考えに恥ずかしくなる。
「余の申し出を断るか、面白い……だか、これは命令である」
王が“命令”という言葉を使った瞬間、動けなくなった。
カナリアはすくっと立ち、王の方へ歩きはじめる。
カナリアを止めたいのに、まるで自分の身体じゃないみたいに、指一本動かない。
「カナリア、お前は余のモノだ」
「……」
王のすぐ前まで来たカナリアに、王が触れる。
カナリアは人形のように、されるがままだ。
王が愉しそうに笑う。
止めたいのに、大声を出したいのに、ピクリとも動かない身体が恨めしい。
「カナ……リア……」
カナリアの瞳から涙がこぼれ、頬をゆっくりつあい小さな雫となって落ちるのが見えた。
その後、僕の意識はプツリと切られたように闇へ落ちていった。
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