7 きみがぼくのまえからきえたひ

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7 きみがぼくのまえからきえたひ

こぽりこぽりと泡が水面へ登っていくように、僕の意識は目覚めた。 「カナリアっ!」 意識が途切れる前の光景を思い出し、勢い良く起き上がる。 「おや、目が覚めました? 勢い良く起き上がると危ないですよ」 起き上がると何故か身体がフラついて、声の主に身体を支えられながらニッコリと微笑まれた。 「ありがとうございます、トキオミさん」 それは美貌の持ち主にして僕たちを謁見室まで案内してくれたトキオミさんだった。 「王の“命令”に抗う事で身体に負担がかかって倒れたんですよ、もうしばらく大人しく寝ていて下さい」 トキオミに身体を支えられながら、また寝かされる。 「カナリアは? カナリアはどこですか?」 頭の中で最後に見たカナリアの涙を思い出す。 今もまだ泣いているかもしれない。 すぐにカナリアの顔を見て、涙をすくってあげたいのに、この部屋にはいなさそうだ。 「彼女は別の部屋にいますよ、貴方と同じく“命令”に抵抗した影響で眠ってますが」 「会わせて下さい」 「彼女の事は忘れた方が良いですよ」 「嫌です。カナリアに会わせて下さい」 トキオミさんが困ったなというように、少しため息をはいた。 こんな綺麗なヒトを困らせることに罪悪感を感じるけれど、僕は引き下がれない。 「彼女は王の所有となったのです。今後は会うことも難しいでしょう」 「カナリアは断りました。それにカナリアは誰かのモノではなく、一人のヒトです」 「王には関係ないのですよ、そんな些細なこと」 トキオミは真っ直ぐに僕を見つめて言う。 その銀色の瞳の奥は少しも揺らいでいない。 ここで僕が何を言っても、トキオミは僕とカナリアを会わせる気は一切ないのだとわかる。 「王は我々とは違うのです、王からすれば我々は所詮玩具でしかない。だから我々は王の“命令”に背く事は出来ないのですよ」 意味がわからない。 でもあの“命令”というモノを受けた時、自分の身体が自分の意思で動かせなかった。 王のあの金色の瞳を思い出すだけで、背中がゾクリと粟立つ。 「それでも僕は、カナリアをこのままには出来ません」 それでも僕はカナリアをこのまま諦められない。 僕とカナリアはまだ出会って間もないのに、自分でも不思議なくらいカナリアを放っておくことなんて出来ない。 「……とりあえず今は身体を休めて下さい」 トキオミがさらりと僕の頭を撫でると、そのまま僕の意識はまた、こぽりと海に沈むように溶けていった。 「全てはそれからです……」 遠く意識が溶ける前にトキオミの声で、誰かに何かを話しているのが聞こえた気がした。 「そろそろだぞ、起きろ」 知らない声で目を覚ます。すでに日が落ちているのか、辺りは真っ暗だ。 「……だれ?」 「お、起きたな、身体はもう動くな? 動かなくても根性でどうにかしろ、お前の大切なモノを取り戻したかったらな」 「カナリアっ!」 「バカヤロ、でっけぇ声出すな」 「ご、ごめん」 言葉と共にガバリと起き上がった僕にすかさず、ビシリと言葉共にツッコミが入る。 僕は慌てて口をおさえ、小声で謝った。 幸いもう身体は何とも無いようで自然に動ける。 「お前はこれから俺様の案内のもと、王のコレクション部屋に忍び込むんだ、見つかったら命はないと思えよ」 やっと暗闇に目が慣れてきて、ニヤリと悪そうに笑うどこか見覚えのある顔が見えた。
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