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その日の夜、灯真は安眠を優先した。
夜は特別な用事がない限り、普段は除霊師としての仕事を行う。レインタウンには国に認められた除霊師が灯真を含めて五人おり、全員が同じマンションに住んでいる。夜になると仕事の話をするために、マンションの一階にあるカフェ『ハンス』に集まることになっている。
「悪いけど俺、今日はパス。まじで体がもたねえ」
五人はそれぞれカウンターの椅子に座ったり、テーブル席のソファに座ったりしてコーヒーや紅茶を飲んでいる。カウンター内の椅子に座っている最年長除霊師の小谷野は、眠っているのか起きているのかわからない目の細さで、向かいに座る灯真を見た。
「若いもんは体力がないのう」
「うるせー。犯罪組織一つ壊滅させたうえに一斉除霊してんだぞ。クソババァには無理な話だろ」
「そもそも人殺しは仕事の範疇を超えておるがな」
「やりたくてやるわけねーだろ」
「灯真くんは昨日頑張ったもんねえ! えらい、えらい!」
腰まであるロングヘアが自慢の紗里奈が、カウンターの椅子に座っている灯真を後ろをから抱きしめ、さらには頭をグシャグシャと雑に撫でる。
「子供扱いすんな!」
灯真は紗里奈の手を振り払い、椅子に座ったまま彼女に向き直る。
「私から見たら高校生は十分子供よ」
「うっせえ、ババァ」
「じゃあ、今日はそのババァが行って来てあげよっか?」
大きな胸をさらに主張するように、紗里奈が腕を組み灯真の顔を覗き込む。鬱陶しそうに眉を顰めながら、灯真はテーブルに頬杖をついた。白いマグカップからはまだ湯気が出ている。
「お前にできんのかよ」
「あら、やだ。こう見えてもここのNo.2よ? 灯真くんほどじゃないにせよ、大量の霊を一掃するくらいわけないわ」
五人のうち最も霊力が高く、除霊成功率が高いのは灯真であり、紗里奈はその次だ。
「紗里奈さんなら大丈夫だろ。灯真は部屋で寝てろよ」
テーブル席で携帯型ゲーム機と睨めっこしていた悠聖は、画面から視線を外して二人を見やる。彼の向かいに座る、二十代の一見サラリーマン風の男、西日は、悠聖のゲーム機の画面に「loseと表示されたのを見て、新しいたばこを口に咥えた。
「そもそもあんたを拾ったのは私よ? 任せなさい!」
「はいはい。んじゃ、頼んだぜ」
今は使われていない倉庫で大量殺人があったとの情報が入ったのが十分前。そこは以前から密輸組織が拠点としていた場所であり、殺されたのはおそらくその組織の人間か、あるいは組織を一網打尽にしようとした警察のどちらかだ。
除霊の仕事はその日に手が空いている者が行うか、あるいは上から降りてくる情報をもとに、除霊対象に対抗できる霊力を持つ除霊師が指名される。数体の浮遊霊や力の弱い悪霊を除霊したり、廃墟の視察に行ったりする程度なら誰が行っても問題はない。
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