第一章

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 しかし昨日や今日のように大量殺人の副産物である浮遊霊を一斉除霊する場合は、紗里奈か灯真が行く場合が多い。浮遊霊とはいえ数が多ければその分だけ霊力を消費するうえ、その場で複数の霊が集まって怨霊と化す場合が稀にあるからだ。  何より『霊力を使って人間を殺せる除霊師』は灯真と紗里奈の二人だけだ。昨日のように犯罪組織の人間が現れた場合、他の除霊師では殺される可能性が高い。 「そういや、悠聖。お前近々トンネルの調査行くとか言ってなかったか?」 「昨日、行ったわ。浮遊霊が五体いたくらいで、変わったことはなかったぞ。さくっと除霊して終わり」 「まあ、ごく稀に浮遊霊がはっきり見えちゃう子が騒いだんでしょ。あるいは感じるだけの子とか」 「中途半端に霊力ある奴らが一番迷惑だよな。変な噂立てるし」 「そうそう。で、トンネルの次は廃墟だってよ」 「廃墟? それこそ浮遊霊か地縛霊がいるだけだろ?」 「と思うだろ? それがさ、その廃墟、怨霊信仰の信者たちが夜な夜な集まって、なんかやべーことしてるらしくて」 「怨霊信仰ってことは、三十区あたりか。遠いな」 「いや、今回は十二区だ。問題ねえよ」  五人以外にも除霊師は存在するが、そのほとんどがやる気がなかったり、そもそもほのんど力がなかったり、あっても自分の身を守るために力を使う者たちばかりだ。特に安全区画以外の区画に住んでいる者となれば、むしろ霊力を悪用しようとする者も大勢いる。 「ま、俺なら大丈夫だけど」  悠聖は歯を見せてニカっと笑うと、ゲーム機を置いたまま席を立ち、出入り口に向かって歩いて行く。そのタイミングで灯真も席を立ち、カフェのカウンター内に入り、その奥にある階段をのぼった。  通り過ぎ様に小谷野が「明日はきちんと仕事をするんだよ、クソガキ」と言ったので、灯真は歩きながら軽く手を振った。  ビルの三階に灯真の部屋がある。高校生らしさの欠片もない、物のない広いだけの部屋だ。これは単に物欲がないからではなく、幼いころから除霊師として働いており、また家賃も免除されているので、貯金はある程度あるのだが、仕事のせいでこれといった趣味を持つことができなかったことが大きい。またクラスメイトたちの間で流行っているものにもついていけないことも要因の一つだ。  シャワーを浴び、洗面所で歯を磨く。髪を乾かしながらリビングに行き、部屋のテレビをつける。自称占い師がテレビに出ている女優の運勢を占っていたので、すぐにテレビを消してベッドに入る。  ふと、八緒の顔を思い出して、彼の周りに黒い手が伸びている様子が脳裏をよぎった。もちろんそんな現場を実際に見たことはない。きっと彼の容姿があまりにも美しいせいで、余計な心配をしているのだろう。  そこまで考えて、それは本当に余計な心配だと自分でも呆れてしまった。相手は高校生だ。右も左もわからない子供ではない。あれだけ酷い目に遭っていながら、また一人で外出するような真似はしないだろう。 「気にする必要ねえよな」  時計を見ると寝るにはまだ早い時間だが、寝不足のせいで、気がつくと灯真は深い眠りに落ちていた。
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