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椅子に座った死体は、倉庫の真ん中に道を作るようにして左右に並んでいる。
「こんばんは、灯真くん」
道の先には、古びた木製の丸いテーブルがあり、それと同じデザインの椅子に男が座っている。彼は色素の薄い銀色の髪をしていた。その横顔はまるで彫刻のようで、薄汚い廃倉庫の中ではより美しく見える。男の向かいには、首から上がない女の死体が椅子に座っている。
「おま、え……ここで、何してる……」
「見ての通り、お人形ごっこだよ」
テーブルの上にはティーカップが二つ、それぞれ男と女の死体の前に置かれている。薄暗い倉庫の中で、カップの金縁がやけに光って見える。
「灯真くんが来るまでの間、せっかくだからお人形ごっこして待ってようと思ったんだ」
「俺を……?」
宝石のようなエメラルドグリーンの目と目が合う。このクラスメイトとは朝からずっと顔を合わせていたのに、今は別の誰かのように思えてうまく言葉が出てこない。
「灯真くん、言ったよね? 人を殺すなら頭ごと落とせって。だからその通りにしてみたんだ。うまくできたでしょ? それなのに、君じゃない人が来たからびっくりしちゃった」
数時間前の自分の言葉と、廃倉庫に向かった紗里奈の顔が交互に思い出される。胃の中がひっくり返ったような気持ち悪さに襲われ、思わず手で口を覆う。
「昨日のも、お前か……」
倉庫のシャッターの前で気づいた違和感。昨日の廃工場ではじめてこの男を見たとき、腰のあたりで両手を縛られていた。それも縄やテープではなく、鉄の枷だ。しかし犯罪組織の仲間が拳銃を向けたとき、この男は両手を挙げていた。
両手を使えない状況で、あれをどうやって外した?
「そうだよ。たまたま廃工場に入ったら悪い人たちがいっぱいてさ、殺してたら捕まっちゃったんだ。でも灯真くんが助けてくれて本当に嬉しかったよ」
男は椅子から立ち上がると、ゆっくりと灯真に向かって歩き出す。男が一歩前に進むごとに、強烈な絶望と恐怖が押し寄せてくる。
「……お前を捕まえたやつは、どうやって殺した?」
「ん? 知りたい?」
手品の種明かしでもするみたいに、楽しそうに笑って男は一度だけ手を叩いた。
パンッ、と乾いた音が響く。
その瞬間、首のない死体が一斉に体を捻り、血飛沫を上げながら地面に倒れた。真っ赤な血が灯真の視界を覆い、悲鳴にもならない声を上げる。
「ああ、ごめんね。灯真くんの顔、汚れちゃった」
男は心から申し訳ないというふうに目尻を下げ、服の袖で灯真の顔についた血を拭おうとした。
「……さわんな!」
反射的に男の手を払い、一歩後ずさる。
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