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風は竜巻のように天井に向かって上昇していく。男たちがその様子を黙って見ていると、赤い風は周りの空気を巻き込むようにしてさらに大きくなる。立っていることすら難しいほどの強風に襲われながらも、男たちは銃を構えたまま倒れないように足に力を入れる。
その竜巻を裂くように、突如として三メートルを越す巨大な人の手が現れた。真っ白なその手が床につくと、竜巻の中からさらにもう一方の手が現れた。
「なっ……」
男たちは言葉を失い、ただ呆然と巨大な手が転がっている死体を潰していく様を見つめていた。
「ちゃんと保護者同伴だっての。なあ? 母さん」
赤い竜巻が工場の闇に消えていくと、灯真の後ろに巨大な手の本体が現れた。あまりの大きさに四つん這いの状態で姿を現したそれは、赤黒い着物を着ており、そして首から上がなかった。
「俺は殺してないって言ってんのにさ、誰も信じてくんねーの。ひどいと思わねえ? 俺はただここで死んだ連中の除霊に来ただけだってのに」
灯真の言葉に反応した化け物が、銃を向けていた男の一人を掴んでそのまま握り潰した。巨大な白い指の隙間から、人、一人分の血や肉片が飛び散る。
化け物の長い腕が男たちもとに伸びていく。半狂乱になった男たちが狙いも定めずに、銃の引き金を引くが、それらの弾は化け物の手を通り抜けて工場の壁にめり込んでいく。
「ちょ、ちょっと待て……! 話せばわかる!」
巨大な手が三人の男を掴み、ゆっくりと持ち上げる。
「話したくらいでわかるなら、もうとっくに俺は家に帰ってるはずなんだよ」
灯真は通信機で現在の時間を確認する。夜の十一時を過ぎようとしていた。
「死にたくない、死にたくない、死にたくない!!」
「助けてくれ!! こんな死に方は嫌だ!!」
「ああ……!!! 頼むからやめさせてくれ!!」
男たちの叫びは、ぶちっと頭がちぎれる音とともに聞こえなくなった。
「あとはあんただけだな」
灯真は最後に残った男を見下ろす。化け物を見て腰を抜かした男は、俯いたままぶつぶつと何かを呟いている。
「人殺しを裁くのが、人殺しであってはならない。なんてことはないって言ってたけどよ、犯罪者を裁くのが、化け物であってはならない。なんてこともないよな?」
巨大な手が男の元に伸びでいく。男は抜け殻のような顔でその手を見、ひどく怯えたあと、拳銃を自分のこめかみに当てた。
「死ね」
男がそう発した瞬間、空間を切り裂くような鋭い銃声が工場内に響く。同時に化け物が姿を消した。
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