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ホームルーム開始のチャイムが鳴るまでには寝ている予定だったが、転校生が来ると知った生徒たちがギリギリまで騒いでいたせいで、結局灯真は眠れずじまいだった。
「クソ……」
昨日の過労と睡眠不足のせいで苛立ちが増す。教室のドアが開き、出席簿を持った担任が入ってくる。一日の終わりのような顔をした担任は、生徒たちと目を合わせることもなく、教卓の前に立ち黒板に文字を書いた。
「今日は転校生を紹介する。入ってこい」
担任の男の声に続いて教室に入ってきたのは、目を見張るほど美しい顔の男だった。色素の薄い銀色の髪、宝石のようなエメラルドグリーンの瞳、筋の通った鼻、薄い唇、どこをとっても美術品のように美しく、見る人すべてを魅了する。
女子たちは興奮が抑えきれないのか、本人に聞こえることも気にせず大きな声をあげ、男子たちは同性である自分たちとの差に圧倒されていた。
「はじめまして。空井八緒です。よろしくお願いします」
灯真は八緒を見た瞬間、昨日の廃工場で出会った男を思い出し、反射的に席を立った。
「お前、昨日の!」
教室中の視線が灯真に集まる。ようやく担任が顔を上げた。
「天翠、お前空井と知り合いか?」
「え、あ……まあ」
昨日人身売買されそうになっていた人です、と言いかけて口をつぐんだ。いや、たとえその話をしてこの男が周りからどんな扱いを受けようとも構わないが、昨日の工場の出来事を他の生徒に知られるわけにはいかない。
「んじゃ、空井は天翠の隣の席だ。面倒みてやれよ、天翠」
「は!? 何で俺がんなことしなくちゃなんねーんだよ!」
「転校生にくらい優しくしろ」
空井八緒はまっすぐに灯真の席に向かうと、「よろしくね」と笑顔を見せ、空いている隣の席に座った。ブレザーの間から見えるおろし立ての白いカッターシャツに目がいく。
昨日倉庫で見たとき、彼の腹部は赤黒い血で汚れていた。あれだけの怪我をした翌日に学校に来るとは、相当体が丈夫なのだろうか。それとも見かけほど大した怪我ではなかったのだろうか。
そこまで考えて、よく知りもしない相手の怪我の具合など、どうでもいいことに気がつき、灯馬は再びうつ伏せにかって寝る努力をした。
ホームルームのあとは五分の休憩があり、すぐさま八緒の席は女子によって取り囲まれた。おかけで遠くなりかけていた意識が再び戻される。
「空井くんって前はどんな高校に通っていたの?」
「レインタウン出身? それとも他の街?」
「連絡先、教えてほしいな」
「八緒くんって呼んでいい?」
八緒はそれらの質問や頼み事に対し、一つ一つ丁寧に答えていく。隣の灯真は鬱陶しそうにその様子を見ながら一時間目の授業の準備をした。
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