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女子と八緒のやりとりは休憩時間のたびに行われた。しかし昼休みになると女子の集団をかき分け、八緒自ら灯真に声をかけた。
「灯真くん、俺、購買に行きたいんだ。場所を教えてくれる?」
彼の後ろで女子が「私が案内するよ」、「一緒に行こう」と声をかけている。その中には亜足の彼女もいて、思わず灯真は眉間に皺を寄せる。
「あー、はいはい。俺も行くから着いてこいよ」
本来なら断りたいところだが、灯真自身、彼に用があったので一緒に購買まで行くことにした。女子の集団を振り切って一階まで降り、購買のある別棟に向かう。
「なあ、お前、昨日のやつだろ?」
ずっと気になっていた。昨日、廃工場で犯罪組織を皆殺しにしたとき、この男はどこにいたのか。いつの間にか姿を消していたので、あの化け物を見たのか見ていないのか、皆殺しの現場を見たのか見ていないのか、灯真にはわからなかった。
「そうだよ。俺は昨日、君に助けられた」
「いつの間にいなくなったんだよ」
「君が『お母さん』を呼び出したあとかな」
やはり見られていたのか、と灯真は内心ため息をつく。
「あれを使って除霊してるってことかな?」
「まあ、そんなとこだ。お前、霊は見えんのか?」
「どうだろう。少なくとも昨日初めて見た。人が霊を呼び出すところも、それで人が死ぬところも」
「普段見えないやつでも、ああいう場では見えちまうことがある。でもな、昨日のことは見なかったことにしろ。俺もお前が犯罪に巻き込まれたことは黙っててやるから」
「この学校の人たちは君があれを呼び出せることを知らないの?」
「知られたら俺はたぶんここにはいられなくなる」
犯罪組織の多いこの街で、未成年はターゲットになりやすい。人身売買において未成年は成人の倍以上の値段で取引されるし、それ以外にも殺人、暴行、詐欺などあらゆる犯罪において、知識や力の乏しい未成年はどうしたって狙われやすい。
だからこそこの街では、夜の九時以降、未成年単独での外出を禁止している。犯罪者を取り締まるより、未成年の外出を禁止するほうが警察にとって楽だからだ。
そんな街で未成年の、それも除霊ができる少年がいると知れ渡れば、確実に犯罪組織に狙われる。いい見せ物として一生働かされるか、金持ちのコレクションにされるかのどちらかだ。そのため、灯真はできるだけ自分の正体を知られないように日々を過ごしている。
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