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「ふうん。そっか。それはよくないね。俺とデートできなくなっちゃう」
「お前とデートする趣味はねえっつったろ」
「俺、この街のこと全然知らないから、灯真くんに教えてもらいたいんだよね」
八緒の転校が遅れたのは、犯罪に巻き込まれたからだろう。これだけ顔が整っていれば、売られた先で性奴隷にされるのは目に見えている。
「……手間のかかるやつだな」
「ファミレスってところに行ってみたい」
「それが俺とお前の初デートか?」
「そうだね。学生らしくていいんじゃないかな」
学生らしいという言葉に、灯真は八緒のこれまで人生について考えた。もしかすると、この男はこの美貌のせいで子供らしい生活をしたことがないのかもしれない。
一歩外に出れば、すれ違う人すべてが彼に魅了される。今だってそうだ。廊下にいる生徒たちが八緒を見てヒソヒソと話している。女だけではない、男の生徒も彼を見て頬を赤くしている。隣の校舎にいる年増の女教師が窓から彼の歩く姿に見惚れている。
「わかった、わかった。学生らしいデートな」
「うん。約束ね」
放課後、約束通り灯真は八緒とデートをした。女遊びの激しい亜足は今日も三人目の彼女を家に連れ込んでいるだろう。そんな中で自分が男とデートしているのはどうもおかしな話だ。しかし、転校してきたばかりで、犯罪被害に遭ったこの男を放っておけない気持ちは少しばかりあった。
「いちごパフェとバニラアイスがいい」
「バニラアイスはいちごパフェにも乗ってるぞ」
「じゃあ、いちごパフェとチーズケーキ」
可愛いらしい制服を着た店員を呼び、いちごパフェとチーズケーキとコーヒーを注文する。
「灯真くんは食べないの?」
「腹減ってねえし、あと甘いもんは嫌いだ」
「そっか。じゃあ、今度は甘くないものを食べに行こう」
「あのなあ、お前とのデートはこれきりだ」
「どうして?」
「どうせなら女とデートしろよ。せっかく共学に通ってんだからよ」
「うーん。女の子だからデートしたいわけじゃないよ。灯真くんとだからしたいだけで」
「……いや、意味わかんねーわ」
アイスコーヒーをストローで混ぜると氷の涼しい音がする。八緒は楽しそうにいちごパフェのいちご以外を食べており、チーズケーキにはまだ手をつけていない。
「いちご、食えよ」
「好きなものは最後に食べるんだよ」
「そういうのって、アイスとかクリームと食うからいいんじゃねえの?」
「そうかもね。でも、そいつらと一緒に食べると、いちごのおいしさが半減しちゃうでしょ」
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