7人が本棚に入れています
本棚に追加
練乳のかかったアイスもクリームもクッキーもなくなったパフェの容器に、六つのいちごだけが残っている。八緒はその中でも練乳のかかっていないいちごをフォークで突き刺さし、灯真の口元に持っていく。
「食べる?」
「いらねえよ」
「甘いの、全部なくなったよ?」
八緒が並びのいい歯を見せて笑う。仕方なく口を開けると、いちごが口の中に入ってきた。
「おいしい?」
「……普通だな」
普通の、どこのスーパーにでも売ってるような味だ。しかし八緒は何がそんなに嬉しいのか、とても楽しそうにいちごをフォークで突き刺しては食べている。
「空井ってここに来る前はどこにいたんだ?」
「八緒でいいよ」
「八緒はレインタウン出身か?」
質問してから思い出した。たしかクラスの女子から同じ質問をされていたとき、出身はこの街ではないと言っていたことに。
「どうだろ。よく覚えてない」
「あ? お前、女子には否定してだろ」
「聞かれてたんだ」
「聞こえたんだよ。隣の席だぞ」
「そうだね。うん、そう答えと思う。本当はよく覚えてないけど、あんまり詮索されても困るし」
「繊細な野郎だな」
「褒めてる?」
「さあな。見た目通りってだけだ」
いちごを食べたあとは、チーズケーキを器用にフォークで一口サイズにカットし口に運んでいく。灯真のコーヒーはすでになくっていたが、おかわりをすればその分帰るのが遅くなりかねないので、底に溜まった氷が溶けてできた水をぼんやりと眺めていた。
しかし予測に反して八緒はチーズケーキを完食した後、ガトーショコラと抹茶アイスを注文した。結局、そのままファミレスに居座り続け、夜の七時にようやく出ることになった。
「おいしかった」
「そうかよ」
「特にはじめに食べたいちごパフェとガトーショコラがよかったかな。チーズケーキに乗ってるソースはあんまり好きじゃない」
八緒はファミレスを出てからずっと、食べたデザードに関する感想をつらつらと述べていた。灯真はいちご以外何も食べていないし、普段からそういった甘いものは食べないので、感想を聞いたところで特別思うことはなかった。
「お前の家、こっちであってんのか?」
「うん、そうだよ」
「この前ことでよーくわかったと思うが、この街では夜九時以降は未成年単独での外出は禁止だ。ちゃんと守れよ」
「それって、未成年二人でもダメなの?」
「基本的には保護者同伴。だからって殺されないわけじゃねーけどな。警察はともかく人殺しに条例なんてもんは関係ねえから。死ぬときゃ、死ぬ」
「そっか。じゃあ、気をつけないとね」
最初のコメントを投稿しよう!