第一章

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 練乳のかかったアイスもクリームもクッキーもなくなったパフェの容器に、六つのいちごだけが残っている。八緒はその中でも練乳のかかっていないいちごをフォークで突き刺さし、灯真の口元に持っていく。 「食べる?」 「いらねえよ」 「甘いの、全部なくなったよ?」  八緒が並びのいい歯を見せて笑う。仕方なく口を開けると、いちごが口の中に入ってきた。 「おいしい?」 「……普通だな」  普通の、どこのスーパーにでも売ってるような味だ。しかし八緒は何がそんなに嬉しいのか、とても楽しそうにいちごをフォークで突き刺しては食べている。 「空井ってここに来る前はどこにいたんだ?」 「八緒でいいよ」 「八緒はレインタウン出身か?」  質問してから思い出した。たしかクラスの女子から同じ質問をされていたとき、出身はこの街ではないと言っていたことに。 「どうだろ。よく覚えてない」 「あ? お前、女子には否定してだろ」 「聞かれてたんだ」 「聞こえたんだよ。隣の席だぞ」 「そうだね。うん、そう答えと思う。本当はよく覚えてないけど、あんまり詮索されても困るし」 「繊細な野郎だな」 「褒めてる?」 「さあな。見た目通りってだけだ」  いちごを食べたあとは、チーズケーキを器用にフォークで一口サイズにカットし口に運んでいく。灯真のコーヒーはすでになくっていたが、おかわりをすればその分帰るのが遅くなりかねないので、底に溜まった氷が溶けてできた水をぼんやりと眺めていた。  しかし予測に反して八緒はチーズケーキを完食した後、ガトーショコラと抹茶アイスを注文した。結局、そのままファミレスに居座り続け、夜の七時にようやく出ることになった。 「おいしかった」 「そうかよ」 「特にはじめに食べたいちごパフェとガトーショコラがよかったかな。チーズケーキに乗ってるソースはあんまり好きじゃない」  八緒はファミレスを出てからずっと、食べたデザードに関する感想をつらつらと述べていた。灯真はいちご以外何も食べていないし、普段からそういった甘いものは食べないので、感想を聞いたところで特別思うことはなかった。 「お前の家、こっちであってんのか?」 「うん、そうだよ」 「この前ことでよーくわかったと思うが、この街では夜九時以降は未成年単独での外出は禁止だ。ちゃんと守れよ」 「それって、未成年二人でもダメなの?」 「基本的には保護者同伴。だからって殺されないわけじゃねーけどな。警察はともかく人殺しに条例なんてもんは関係ねえから。死ぬときゃ、死ぬ」 「そっか。じゃあ、気をつけないとね」
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