第一章

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 この街は人の死に対して軽薄だ。それはここの住人たちとって、殺人というものが日常の一部だからだ。今、ここで殺人が起きても大事件として取り上げられることはないだろう。  レインタウンの六区画内ではある程度安全に生活ができるが、それは単に学校でいじめられている生徒が、賭け事に負けた大人が、彼女を寝取られた彼氏が、自分と同じ形をした生き物を殺す勇気がないだけだ。 「ここまででいいよ。今日はデートしてくれてありがとう。すごく楽しかった。灯真くんって優しいんだね」  八緒は灯真の両手を握りしめ、赤い目を細めて優しく笑って見せた。男の灯真ですら見惚れる美しさだった。今、ここにクラスの女子がいれば、きっと頬を赤く染めて黄色い悲鳴をあげているだろう。 「気色悪いこと言ってんじゃねえよ」 「思ったことを言っただけだよ」 「あ、そう。わかったから手を離せ」  素直に手を離されたことに少しだけ驚いた。けれども、男と手を握る趣味などないと自分に言い聞かせる。 「ああ、それと一つ聞きてえことがあんだけど」 「何?」 「昨日、お前を襲ったやつのこと覚えてるか?」  本人にとってはあまり思い出したくないかもしれないが、灯真としては八緒の持っているであろう情報が必要だった。 「……ううん。覚えてないよ。探してるの?」 「一応な。人が死ぬってことは、その分俺の仕事が増えるんだよ。死んだ人間の数だけ霊がいるからな」 「見つけたら殺す?」 「いや。ただ、その殺人鬼を見つけたら文句の一つくらい言ってやらねえとな」 「文句?」 「人を殺すときは頭ごと落とせ。ってな」  その日、灯真はすべてを後悔することになる。自分の人生を大きく変えてしまう事態に、いち早く気がつくことができなかったことに。
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