銃とナイフと星の願いと

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銃とナイフと星の願いと

 星。  子供の頃によく見ていたのは、地平線の彼方に流れていく星を、夕暮れどきに沈む果てしない平原の上で、夢中に追いかけていく夢だった。  地平線はどこまでも続いていた。  星が流れる空は、どこまでも遠かった。  光が届かないほどに黒く遠ざかっていく世界の果てに、目では数え切れないほどの無数の星が、音もなく静かに線を引いていた。  まるで、ギターの音色を奏でるように、キラキラと星が舞っていた。  落ちていくその軌跡が、空一面に埋まった何億光年先の銀河星団を旅立つように、ひらひらと闇夜を漂っていた。  空。  世界がどこに続いていくかを、美しい緑に覆われた平原の地面を蹴りながら、考えていた。  ——いや、それはむしろ、意識の内側にあるものではなかった。  もっとずっと、身近にあるものだった。  光が落ちていく場所、回転する空の袂。  私は、自分が何者であるかもわからなかった。  自分がどこから来たのかも知らなかった。  子供の頃から、遠ざかる街の音を感じていた。  アラームの無い朝の静けさを、耳のそばに感じていた。  ずっと、心のどこかで感じてたんだ。  「明日」は来ないって、思ってた。  どこかに実感が持てなかった。  何もかもが、白黒に見えていた。  肌の温もりでさえ、知らなかった。  ——そう、手に持った一本のナイフが、誰かの心臓を貫いたとしても。  星の流れる場所に行こう。  いつか、誰かと約束したその言葉を、私は今も抱きしめている。  遠ざかっていく声の色が、形が、日に日に薄く、霞んでいったとしても、どこからか聴こえてくるその言葉を、“いつか”の向こうで待っている。    息を吐いて、吸って。  ピストルの引き金を引くその間際に、今日も、息を潜めながら。
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