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吹き過ぎる木枯らしは剃刀のような冷ややかさを帯びていて、俺の身体をひやりと苛むように感じられた。
ブルリと身を震わせた俺は、深々と溜息を吐き、そして目線を上げる。
視界に入るのは黒々とした枝を空に広げる樹々の姿であり、星の瞬きも疎らな無表情な都会の冬空であり、寒々しい白い光を投げ掛ける街灯の様だった。
俺が居るのは自宅近くの公園で、時刻はそろそろ日付も変わろうとする頃だった。
あと三十分もすれば妻も眠りに就くだろう。
そうすれば、俺もようやく我が家に足を踏み入れることが出来る。
もはや定番となったレトルトカレーとパックご飯との夕食を済ませ、なるべく音を立てないようにしながらシャワーを浴び、そそくさと独り眠りに就く。
そして、家族が起き出す前には家を出て職場へと向かわなければならない。
朝食はつい先程に閉店間際のスーパーで買った、見切り品の惣菜パンで済ませる予定だ。
昼食はドラッグストアで買った特売のカップラーメンで済ませるのがここ暫くの恒例だ。
夜七時ごろまでを職場で過ごし、その後は書店などを渡り歩いて時間を潰しつつ暖を取り、店などがおおかた閉まってしまった時間帯になったら自宅の近くにある公園で震えながら過ごすことになる。
改めて溜息を吐いた俺は、ぼんやりと夜空を見上げる。
吐いた息は白々とした霧のようにして辺りに留まったままで、それは俺の身体から抜け出た心の残骸のようにも思えてしまった。
白々とした街灯の光は、仄かにぼやけているように見えた。
俺は、しんみりと回想に浸る。
どうして、どうしてこんなことになってしまったのだと嘆きと哀しみとを噛み締めながら。
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