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「貴様らは! 地獄行きだ!!!」
それは、全く唐突のことだった。
深夜の電車の中へ、ドスの効いた叫びがおどろおどろしく響き渡ったのは。
何時の間にかうつらうつらしていた俺はビクッと目を覚めす。
そして、周りの異変に気が付く。
電車の中の有様は、見慣れたものからすっかり変わってしまっていた。
映画やアニメの中でしか見たことのないような、古めかしいものへと変わり果てていたのだ。
それは例えるならば『銀河鉄道999』の車内といった感じだろうか。
古色蒼然とした趣きであって、木材があちこちに用いられていて、何処か草臥れた雰囲気を漂わせていた。
席の配置自体は見慣れた車内のままであって、疲れ果てた様の背広姿の男達がポツポツとシートに座っていた。
そして、全く様相を変えた電車の中には独りのメイド姿の女が仁王立ちしていたのだ。
その背丈は女にしては低いほうなのだろう。
腰くらいまでの長さの艶やかな黒髪が印象的なその女は、青と白とを基調としたメイド服を纏っていた。
フリル付きのスカートはやけに短く、すらりとした脚は膝上までの白く長いタイツに包まれていた。
短いスカートと膝上までのタイツの間には、世に言うところの『絶対領域』がお約束通りに備わっていて、それは矢鱈と艶めかしいものと感じられてしまった。
けれども、その女を特徴立てていたのは可憐とも妖艶とも形容し得る出で立ちなどでは無くて、その左手に携えている物騒な代物だった。
女は、その左手に長尺の銃を携えていたのだ。
それは今時な自動小銃などではなく、マスケット銃といった趣きの古めかしいものだった。
例えるならば『まどマギ』にて巴マミが携えているような代物だ。
女は左手で銃を持ったまま、鋭い眼差しで以て車内をグルリと見廻した。
切れ長の目の中に在る瞳は獣じみた凶暴な光をギラギラと湛えていた。
それはほんの刹那のことだったけれども、車内を見廻す女と目が合ってしまう。
狂気とも怒りとも殺気とも判じ難い禍々しい感情が、どす黒い怒濤の如く俺の心へと流れ込んで来るように思えてしまい、つい「ヒィッ!」と雛鳥のような悲鳴を上げてしまう。
そして、隣に座る葛西へ「ドンッ!」と寄り掛ってしまう。
「ふぁぁ…、あぁ…。あれ、どうしたんすか?」と、ようやく目を覚ました葛西が欠伸まじりの声で俺へと話し掛けて来る。
酒臭い息が鼻を突く。
「いや、俺も良く分かねーよ。何かヤバいことになってるんだよ」と、小声にて答えを返す。
狂気や殺意に満ち満ちたメイド女の視線を思い返すと、怯えのような思いが心に湧き出してしまい、知らず知らずのうちに声を潜めてしまっていた。
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