7人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「チームプレイ下手すぎかよ!?こんなんアイツらに文句言われても仕方ねえぞ」
「は?!その時はちゃんと」
「これからは、オレがなんとかしてやるよ」
佐野は目を丸くする。
「さっきみたいに失敗してもリカバリーしてやるし、変なこと言うヤツがいたらオレが相手してやる」
佐野の目は揺れて、支えるようにオレは両肩を掴んだ。切れ長の目を真っ直ぐ見る。
「ごめん、オレ、やっぱりお前とバスケがしたい。ただ強いヤツじゃなくて」
佐野は息を呑んだ。それから俯くと、
「じゃあ、勝負してください」
とどこかに歩き始めた。
佐野を追いかけていくと、外の体育倉庫に連れ込まれる。
「先輩が勝負に勝ったら、バスケ部に入ってもいいです」
「マジで?!でも勝負って」
「先にキスした方が負け」
顔の横の壁に佐野の手がついて、顎を持ち上げられる。名前を呼ぼうとしたら、佐野の顔が迫ってきて唇が軽くなった。重なる身体が汗ばんでくる。顔が離れると、やっとキスされていたことに気づいた。えっ、なんで?
「ずっと好きだったんです」
佐野はオレの肩に額をつける。
「いつも、すごく楽しそうにバスケしてる姿が眩しくて。1on1だって、勝敗なんてどうでもよかった。先輩に構ってもらえるのが嬉しかったんです。バスケが好きだったからじゃない」
佐野の声はずっと震えている。耳の先は赤くなっていた。ぴったりくっついた胸の鼓動の熱さは、どちらのものかわからない。
「俺、すごい不純な動機なんですけどいいですか?先輩のそばにいたいし、先輩とならバスケットを楽しめるかもって」
「い、いいに決まってんじゃん!普通に嬉しいんだけど!」
「・・・嫌じゃない?」
「一緒にバスケできるのもそうだし、好きとかキスとかも・・・その、嫌じゃない、し・・・」
佐野は「正直者だ」と可笑しそうに肩を揺らす。
タイミングがいいのか悪いのか、オレのスマホが鳴った。画面を見れば部長からだった。「どこにいる?」とメッセージが入っている。
「そろそろ戻るか」
「そうですね。でも、あと一回だけ」
オレを見下ろす佐野の目は少し赤くなっていて、その顔が近づきぼやけていく。オレは目を閉じて顎を上げた。
今度は電話の呼び出し音が鳴るまで、オレたちは唇を重ねていた。
二学期になって、佐野は正式にバスケ部に入部した。まさかこんな早くに決心するとは思わなかった。
園芸部とも掛け持ちしていて、毎朝水やりしてから朝練に来る。
オレ以外まだ誰もいない体育館にやってきた佐野は、シューズを傍に置いてストレッチを始めた。
「毎朝よくやるよな」
オレは佐野の隣に座って麦茶を飲む。
「朝練のついでですから」
「無理して来なくていいって」
「だって先輩が来てるでしょ」
「ハハっ、お前オレのこと好きすぎじゃね?」
からかうつもりで言ったのに
「そうですけど」
と真顔で返された。表情筋が固まって、顔が熱くなってくる。
「正直すぎ。本当にかわいい人ですね」
あどけない顔で笑う佐野に、ますます顔が熱くなる。
「クソ!マジで生意気なやつだな!勝負しろお前ぇ!」
「いいですよ。先輩が負けたらどうします?」
「負ける前提なのがムカつくんだけど」
「じゃあ俺が勝ったらキスしていいですか?」
「じ、じじじ上等だ!」
佐野はコートに入るとボールを持って、オレの正面に立つ。楽しそうな顔しやがって。
オレは腰を落として手を構える。ボールは小気味いい音を立ててオレの手に渡った。キュッとシューズが床を擦る音を合図に、オレたちはゴールに向かって走り出した。
end
最初のコメントを投稿しよう!