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「自分凄いやろ、凄いやろー!もっと褒めたってもええんやで!?」
「そ、そうだな」
どうしよう。
神通高校の“島風扇”から来たファンレターの中身を見た守也は、自宅リビングで困惑しつつ松葉を見た。
彼とシェアハウスしているのは、世界冒険者機関日本支部近くのマンションである。家賃の類を冒険者機関が持ってくれているのもあり、賃貸にも拘らずオートロック付きの結構良い家に住んでいるのだった。
今日は休暇を取って家でのんびりするつもりだったのだが――なんといっても、冒険者機関から送られてきた手紙がいろいろな意味で爆弾だったのである。
そう、松葉のことをすっかり“男装の女性”と信じこんでしまった、扇からの手紙とか。
「何や何や、変な顔しとんな守也」
今回のダンジョン探索で成果を上げ、上機嫌だった松葉。しかし守也の微妙な顔に気付いてか、やや心配そうに眉を顰める。
「冒険者機関から手紙郵送されてきたんやろ。何やの、不幸の手紙でもあった?」
「あ、いや、その、そういうわけではなく……」
「?」
「ま、まだ整理が終わっとらんのだ。いろいろ片付いたらお前の分は渡すから」
「そ?ならええけど」
「…………」
どうしよう、コレ。
扇の、男らしくいかつい達筆な文字――でつづられた熱烈なラブレターを見て途方に暮れる守也である。まさか、松葉の正体を明かしてなお女だと信じ込んでベタ惚れしてくる相手がいようとは思ってもみなかった。
いたいけな青少年を、悪い大人が騙してしまったような形になっている。一体どうしたものか。とりあえずは。
――もう松葉に女装させないようにしよう、そうしよう。
相棒の自分でさえグラっときたのだ。
あらぬトラブルを防ぐためには、今後はあのような変装はさせないのが無難だろう。いやその、いろいろと後腐れもありそうであるし。
「そ、その……確認したいんだが」
話を逸らすため。
同時に、冒険者機関から送られてきたメールの内容を確かめるため、守也は口を開いた。
「本当に、怪我はないんだな?三日も過ぎた今、もう一度確認するのもなんだが」
「無いっちゅーやろ。服破かれただけやねん」
「そうか……」
松葉は、ダンジョンに吸い込まれたその日の夜に――戻ってきた。
世界冒険者機関と学校側、警察が協力して封鎖した屋上。その給水塔の上から突然降ってきたのである。
多くの一般人たちが飲みこまれ、そのまま行方不明になったダンジョン。なのにどうして、まともな装備も何もない松葉だけがあっさり戻ってこられたのか。その質問に、彼はこう答えた――わからん、と。
『残念やけど、自分以外の人らは全滅や。みんな、とっくに死んでしまっとるのに、魂が完全にあの空間に括りつけられてしまっとる。ダンジョンごと異空間を破壊するしか、成仏させてやれる方法はないで』
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