<31・守也。>

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 ダンジョンの鍵は、背徳者が持っていってしまった。ゆえに、ダンジョンを開くには七不思議の儀式を使うしかない。  幸いにして今回のダンジョンは、入口を見ただけで中に入りたくてたまらなくなる――ような認識災害や精神汚染を起こすタイプではないようだった。よって、松葉が儀式を行ってダンジョンを出現させたところで、あらゆる武器や道具を使って扉を破壊しにかかったのである。  ところがどっこい、その扉を壊すのが簡単なことではなかった。松葉の電撃銃でも、守也の質量剣も、他の冒険者たちの爆弾や銃や斧やナイフでも傷ひとつつかない。どうしたものかと途方に暮れたその時、松葉が言い出したのである。 『ひょっとしたら……自分が持ち帰ってきたあのアメジスト、使えるんちゃうん?』  彼が、今回のダンジョン――“限りの扉”から持ち帰ってきた謎の紫色の水晶。とりあえずアメジストと呼ぶことにはなったものの、地球上にあるアメジストとはまるで別物の物質だった。とてつもないエネルギーを秘めていいることはわかっていたが、どのように使えばいいのか、どのような材質なのか、まだ全くと言っていいほど判明していなかったのである。  それが、鉱石を粉末状に砕いたものを松葉の銃に振りかけたら――あっさり扉の破壊に成功した。鎖を打ち込んだだけで、扉がバラバラに砕けたのである。  物質の力を大幅に強化する能力がある。少なくともそれは間違いないようだ。問題は。 ――……あれは、人間が素手で触って平気でいられるようなものじゃない。研究機関はそう言っていた。そして。  何故、松葉はその使い道を知っていたのか。  それを持って、無傷でダンジョンから戻ってこられたのか。  事件は解決したはいいものの、彼への疑惑はさらに深まってしまった結果となったのである。 「なあ、松葉、お前……」 「ん?」  松葉は眼鏡の奥から、大きな瞳をまんまるにしてこちらを見た。こうしてみると、ちょっと綺麗すぎる顔をしただけの普通の青年にしか見えない。そして。 「まあいろいろあったけど、ダンジョン壊せてほんまによかったし……変態の先生も処分できてよかったんちゃうの?人が死んでOKって言うのはなんやけど、これでもうあの先生に酷い目に遭わされる子供がいなくなるんやから」 「……あ、ああそうだな」  にこにこと笑顔で言う言葉に、嘘があるようには見えないのである。心から、学校の平和を守れて良かったと思っているようにしか。 ――神様、どうか。  神様なんて、信じていないはずだった。それでも、守也は願わずにはいられないのである。 『ナァニ……全ては明らかになるだロウさ。すべて、いづれハ……その時を楽しみに待つがいい、小さきニンゲンよ……』 ――どうかこいつが……世界の敵ではありませんように。そして、どうか、このまま……。  言葉にできない祈りは、守也の胸の奥に落ちて、そっとしまわれたのだった。
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