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「とまあ、これが世に言われるところの“始まりの塔”事件であるわけです」
ここは、とある喫茶店。目の前の二人組にそこまで語ったところで、能代舞はちらりと顔を上げた。
現在二十六歳の舞は、雑誌記者としてもまだ半人前で、さらには春に思いがけない編集部に配属となっててんやわんやしている状態だった。
“月間・ネオダンジョン”。タイトルそのままの通り。世界中にある“ダンジョン”とその冒険家たちに関する特集を組む雑誌である。
20XXの第三次世界大戦中に北の大地で発見された“始まりの塔”。それを皮切りに、“抵抗者”の予言通り世界各地で見つかることとなった数々のダンジョン。始まりの塔同様の塔であることもあれば、洞窟だったり地下室だったり、はたまた謎の洋館の姿をしていることもあるという。それらを調査し、世界冒険者機関に報告を入れるのが冒険者たちの仕事なのだった。
とはいえ。
――だ、大丈夫かな。本当に私でいいのかな。ぜ、全然冒険者とかダンジョンとか、知識ないんだけど……。
元々ファッション誌の仕事がしたかった舞である。まさかネオダンジョンの編集部配属となってしまい、途方に暮れているというのが現状だった。
要は、ダンジョンと冒険家に関してあまりにも知識がないのである。とりあえず現在、とある日本出身の冒険家二人にインタビューを試みているわけだったが――無知が露呈して失礼があったらどうしよう、とガチガチに緊張しているわけだった。
興味がゼロのジャンル、ではない。
しかし今まで一般的な日本人女性でしかなかった舞にとっては、ダンジョンなんて遠い世界のおとぎ話のようにしか感じていなかったのである。日本にもダンジョンはあるが、存在するのは田舎や山奥が大半であり、さらに見つかってすぐ封鎖されてしまうので一般人は近づくこともままならない。
ダンジョンが見つかって数十年が過ぎたが、未だに“本当にそんなものがあるの?”とどこかで半信半疑でいる者は少なくないのではなかろうか。なんというか、B級のハリウッド映画でも見ているような気分なのだ。
「……と、大変申し訳ないのですが」
誤魔化そうと思ったが、よくよく考えて見ればそれも失礼な気がする。舞は素直に認めることにした。
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