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   二年生の教室は三階にあった。廊下とは逆のサイドには窓がずらっと並んでいて、そこからは校庭の様子が一望できる。  俺は教室の窓枠に手をついて、一かけらの暗さもない、朝の白っぽいグラウンドを見つめていた。モモが大きく描かれたミックスジュースをチューッと飲む。 「明日からテストだってのに、余裕だなー」  振り返ると、クラスメイトの木村がヘラリとした顔で立っていた。適当に挨拶して、俺は開放された窓の外に視線を戻す。昨日苦労して掘った穴は、誰かがいい仕事をしたらしく、きれいさっぱり跡形もなく埋められていた。  または――。 「なぁ木村。太郎って知ってる?」  タロー? と友人が隣に並ぶ。 「ああ、『メリーさんの恋人』の?」 「は? いや、俺が言ってるのは七不思議の太郎」 「この話知らない? 太郎、『トイレのメリーさん』と付き合い始めたらしいよ。だから、ここ二ヶ月くらい『校庭を走って』ないって噂」 「初耳だよ……」  七不思議同士が付き合うってどういうことだ、と思ったが、それ以上に、落とし穴は無駄だったんだな、という感想を抱いた。  ――太郎くんなら、友達になってくれるかと思って。  俺は広々とした校庭を眺めた。横で木村が『音楽室のムンク姫』についてペラペラ語るのを聞き流していると、梅雨時の風が顔をなでた。  軽く調べたところによると、グラウンドの土はせいぜい2、30センチの深さで、その先は石の層になっている。スコップで掘り進めたら、当然そこに行き当たるはずだ。それがなかったということは――。 「サトルって聞いたことあるか?」  半分独り言のような問いかけに、木村はキョトンとした。 「ん? それも七不思議か何か?」 「どうだろ。知らないならいいや」  二年一組はこのクラスだ。他の組と聞き間違えただけの可能性もあるが、彼は本当に二年一組の生徒のかも知れない。俺はあの夜、ものすごくレアな体験をしたのではないか。  どちらにしても、「人生こんなもん」と決めつけるのはちょっと早かったか。  何だよ教えろよ、とからんでくる木村をあしらいながら、俺は充実した気分で、筋肉痛の腕でジュースを口元に運んだ。  
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