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   満月に近い、いい月が、暗い夜空にぽかんと浮かんでいた。砂粒みたいな一等星が一つ、二つ。  そんな空の下で、せっせと活動する二つの人影があった。  暗がりの中、サクッと土の地面に硬いものが差し込まれる音。二秒後にまた似たような音が鳴る。今度のものはやや元気がない。三秒後には再び勢いのある音。そうして、サクッ、サクッと微妙に不規則なリズムが続いていた。  何回目の時だろうか。俺はポケットから懐中電灯を取り出すと、進み具合を確認するべくパッと明かりをつけた。俺の前に、思ったよりも浅かった地面の穴と、両手でスコップを持った気弱そうな相棒の姿が現れた。  この、昼間初めて会ったスコップの男子――サトルに、夜の校庭に忍び込むことを提案したのは俺だった。単純に、夜なら誰にも邪魔されずに落とし穴が掘れると思ったからだ。それと単純に、面白そうだと思ったから。  フェンスを越えて夜の高校に侵入すること、校庭をスコップで掘ること、七不思議の正体を暴くこと。予定調和に満ちた日常にはないものばかりだ。 「もっと掘らないとか。穴掘るのって意外と大変なんだな」  俺が言うと、サトルはコクリと同意した。 「そうだね」  ライトのスイッチを切った。気を取り直して、俺は自分のスコップをサクッと地面に突き立てた。土をいくらか抉り取って、それを右側の闇に放る。腰に痛みを覚えつつ黙々と体を動かしていると、暇を持て余した脳にこんな雑念が湧いた。  普段の俺は、ときどき優等生扱いされるくらいには大人しい人間だ。でも、元々そういう性格という訳ではなくて、物分かりのいい奴のフリをするのが上手いのだと思う。そうやって、学校ってこんなもん、人生ってこんなもんと、すぐに諦めてしまうようになったのは、いつからだっただろうか。  人生がいつも考えているような「こんなもん」だとしたら――今起こっている「これ」は何だ?  ぼうっとしながら作業していたからか、サクッという音の頻度が下がってきた。いや、ペースが落ちているのは俺だけではない。俺はライトをつけた。 「大丈夫か?」  手を休めたサトルは、しっかりと頷いた。小粒の目には懐中電灯の光が映っていて、どこか清々しい表情にも見えた。  自然と、俺は微笑を浮かべていた。もしかすると、俺も今、似たような目をしているのかも知れなかった。  
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