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俺とサトルは校舎のガラス扉の前に並んで腰を下ろした。ここなら太郎が来たら瞬時に駆けつけることができて、かつ近すぎない。
校庭がある場所には闇が巣くい、広い敷地の外の街灯が、フェンスや木の枝の隙間でキラリと光っていた。夜の静寂という伴奏の上に、近くの県道からだろう、空気を読まない車の走行音が二台、三台と重なった。しんみりするべきシーンの気はするが、太郎の足音や、何かの拍子に学校にやって来た警察官の足音はないかと、半分神経をそちらに回していたので、世にも奇妙な気分だ。
「友達、あんましいないのか?」
俺の言葉が生温かい夜気にふわりと漂う。返事を待つ間、前の闇に目を凝らしてみたが、特に変化はなかった。
「クラスで浮いてて……」
「そっか」
浮いてる、というのは控えめな表現なんじゃないかと思ったが、俺は追及しなかった。だって、と思考を進めようとした時、サトルがギュッと、スコップの柄を握る気配がした。
「もう、太郎くんしかいないって思って……」
そっか、と俺は一回目よりも沈んだ声で言った。俺の見立ては間違っていなかったらしい。得体の知れない存在と友達になろうと考えて、人の目も気にせず校庭に落とし穴を掘るなんて、よほどの変人でないなら、よほど追い詰められている人間のすることだ。
「……勇気あるな。こんなこと実行しようと思うなんて。すごいよ、お前」
事情を知らない俺に言えることは限られている。なるべく気楽な調子で言うと、「そんなことないよ」と自信のなさそうな声が返ってきた。
話しながらも、話し終わってからも、俺は太郎の出現に注意していたが、それらしい足音は全くしない。暗いところでじっとしていると、だんだん頭がぼんやりしてきて、俺はフワアとあくびをした。
「そろそろ帰ろっかな。眠くなってきたし。サトルはどうする?」
「僕はもう少し待ってみる」
サトルは微動だにせず、闇に沈んだ校庭を見つめている。俺と違い、制服姿のままの彼に、家庭環境のことも勝手に想像しそうになって、頭を軽く振った。
「じゃ、また学校でってことで。気をつけて」
立ち上がって、あ、と声が出た。
「今さらなんだけど、サトルって何年何組?」
こっちを見上げた相手の表情は、暗闇にぼやけてよく見えなかった。
「二年一組だよ」
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