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「なあ、知ってるか? 桜の色がどうしてピンクなのか」  新入生歓迎会の花見の席で、そう言い出したのはお調子者のタカシだった。彼は大学のバドミントンサークル『アークチーム』のムードメーカー。というよりも、率先して迷惑行為を行う要注意人物のひとりだ。すでにベロベロに酔っていて、片手で一升瓶を持ち、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ歩きまわっている。 「えー? なんで、なんでー?」  あいの手を打ったのは、サークル幹部のトモコ。彼女も頬を赤く染めている。 「じつはな、桜の木のしたには死体が埋まってるんだ。噂によると桜の木は、その死体の血を吸いあげることで、毎年、ピンク色の花を咲かせるんだぜ」 「えー、なにそれ、怖ーい」  トモコが大きな胸を揺らしながらおおげさに怖がってみせる。花見スポットから遠く離れた丘のうえにポツンと一本咲く大きな桜の木のしたでは、アークチームのメンバー十六名がわいわいと騒いでた。まわりにほかの花見客がいないなか、トモコはこの夜桜の雰囲気を盛りあげようとしているのだ。 「え、でも、この桜、白い花が咲いてますけど……」  オドオドと発言したのは、新入生のユウセイだった。 「バカ、おまえ、怖いからって誤魔化そうとしてるんじゃねーよ」  タカシは、ユウセイに向かって一升瓶を振りあげる。 「ひいっ」  ユウセイが頭を抑えて身体を縮める。それを見たタカシが言う。 「あはは。ダセー。おまえ、殴られると思ってビビってんじゃねーよ。このチキン野郎」  そこで下品な笑いが起きた。アークチームの飲み会はいつもこんなノリで進行する。それが新入生歓迎会ならば、なおのこと。それがわかっているから、このサークルにはあまり新入生が入ってこない。入ってきたとしても、たいていは似た者同士のDQNばかりだが、そういった連中はほかのサークルで問題を起こして居場所がなくなった結果、アークチームに流れつく。そんなわけで、現時点での新入生は、ユウセイひとりしかいなかった。 「っていうか、おまえは誰に勧誘されてここにきたんだよ」  からかうようにタカシが言った。 「あー、たしかに。こいつ、いつのまにかまぎれこんでいたよな」  ほかのメンバーもバカにしている。 「かげが薄いんだよ、このインキャオタク。ぎゃはは」  ユウセイは生まれてこのかた、今までずっと友達ができたことがない。今年こそはと思い、勇気を出してサークルの飲み会に参加したのだ。 「ねえねえ、新人くん」  トモコもユウセイに絡み始める。 「おっぱい見せてあげよーか?」 「え?」  トモコはニットの胸元を指で広げる。Gカップの胸の谷間が露出する。
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