人は見かけによらない

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涼side 腕の中にいる彼は、規則的な寝息を立てながら穏やかに眠っていた。 整った顔立ちをしているからか、まるで絵画のような神聖さを感じる。 そんな彼が、今自分の腕の中にいる。 ぞくぞくと背中を駆け抜ける高揚感。 本能を理性で押さえつけて、瑞樹の瞼にキスを落とす。 瑞樹と俺は一緒にこの学園に就職した。 初めは無表情で、全くもって口を開かないその態度を不思議に感じだが、今ではすっかり誤解は解けた。 本当は明るい性格をしていることも、実は天然で危なっかしいことも、全て。 いつからこんな感情を彼に向けるようになったかは分からない。自然と、それが当たり前のように惹かれた。 瑞樹は過去に何かあったらしく、あまり自分に自信がないように感じた。 だからゆっくり、少しずつ。瑞樹の警戒を解くために側に居続けた。 最近ではもう警戒は完全に溶けたのか、雰囲気が柔らかくなった気がした。 これが瑞樹の本当の心なのか。暖かくて、包み込まれるような、陽だまりのような。 完全な信頼を得たこのポジションは、今までの努力も報われる程甘く、溺れてしまいそうなほど心地良い。 瑞樹は俺がただの親切な同僚と思っている。 …俺から向けられる感情になど気付かずに。 瑞樹には眠くなったら俺に言うように教えていたお陰か、今のように眠くなると抱っこを要求するようになった。 成人男性にしては軽すぎる体に少し心配になる。 それに高校生と間違われるような身長の彼は、容姿も相まってこの学園では格好の餌。 金色の髪は光を反射してきらきらと眩しく輝く。 今は伏せられた鮮やかな赤色の瞳も、浮世離れした美しさを加速させている一因だろう。 瑞樹が言うには、父親がフランス人らしく、瑞樹は髪色を父親から、中性的な容姿を母親から受け継いだらしい。 一つ結びにされた長い髪は、歩くたびに揺れて存在感を主張した。 綺麗な髪なのに、あろうことか切ろうとしていた瑞樹を止めて、伸ばし続けてもらっている。 そんな髪を束ねるゴムにそっと手を添える。 しゅる、と外せば滑らかにゴムが髪の毛を滑っていく。 パサリと髪が広がって、宙に投げ出される。 俺しか見れない姿に興奮した。仕事中は邪魔になるからと、いつも一つ結びをしている瑞樹は部屋の中では髪を下ろしている。 俺だけが、髪を解いている姿を知っているという事実に、口角が無意識にも上がった。 目尻にある黒子にキスをすると、瑞樹は「んん…、」と小さく身じろぎをした。 そんな愛らしい姿に少し笑う。 「お、涼じゃねぇか」 「……チッ」 でもそんな平穏はそう長くはない。 俺は目の前の邪魔者に、小さく舌打ちした。
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