彼岸の桜

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ふ、と気がついたら橋のたもとの土手に挟まるように、座っていた。 目の前には川が流れている。 左手には、木造の橋が架けられている。 あれだ、時代劇とかでよく見る木の大橋。 さて、なぜ自分はこんな所に挟まっているのだろうか。 注意しなければ、川に落ちそうである。 土手の上のガードレールに寄りかかりながら、おっちゃんが橋を指差した。 「あの橋はなぁ、一条帝の御代に造られた橋でなぁ。」 世間話をするような口調だ。 このおっちゃんには、見覚えがない。 「一条帝……戻り橋かっ!んで、ここは京都かっ!?」 現代の戻り橋とは、かなり違う。 いや、しかし場所が分かった所で自分がなぜここにいるのかが、さっぱりわからない。 対岸の向こうでは、桜並木が満開だ。 その満開の桜の下を織田信長が馬で闊歩している。 おお、流石は覇王。 格好ええ。 次に、安倍晴明と蘆屋道満が仲良く語り合いながら、桜並木をゆったりと歩いている。 ライバル同士と言われていたが実は仲良しだったのだろうか。 虚無僧の列が続き、新撰組の土方歳三と沖田総司が浅葱色のだんだらの羽織りを翻す。 向こう岸は、キラキラとしていて楽しそうだ。 「偉人達が歩いてますねぇ。」 「ん。向こうは彼岸だからな。」 では、橋の向こうはあの世のなのだろうか。 「お前さん、早く帰らないと戻れなくなるぞ。」 「ああ、ですよね。」 ガードレールを乗り越えておっちゃんの所へ行けば現世だろうか。 そう思って立ち上がると、おっちゃんの下半身は半透明である。 通り行く人々は、うっすらと透けている。 驚いている私を見ておっちゃんは、困ったように笑う。 「こっちは、黄泉だ。」 「へ?」 で、ではどうすればよいのだ。 橋を渡ればあの世。 さりとてガードレールを乗り越えてもあの世と言うことだろうか。 「どうすれば戻れるんです?」 おっちゃんはまた困ったように笑うと、川を指差した。 ぱちり、と目を覚ました。 じっとりとした汗を腕で拭った。 なんだか、嫌な夢を見た。
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