どうかその光だけは、消えないで

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*** 「あーっはっはっは。屋台がこんなに楽しいなんて、私知らなかったぁ~」 「……はは、楽しんでもらえてるようで何よりです、……はい」  射的、型抜き、輪投げ、当てくじ……。  何をすすめてもお手本を求められ、その度に醜態を晒して出禁を食らう。  当然、彼女がその姿を見てやる気を出すはずも無い。  ――っていうか。 「……本当に楽しいのか?」 「? 何で?」 「いや、だって結局きみ、見てるばっかりで一つもやってないだろ? せっかく屋台初参加なんだしさ、何でもいいから挑戦してみないか?」 「あー……あはは。わ、わたしはいいよ。見てるだけで充分楽しいし」 「でも、あと何分かで屋台も店仕舞いの時間だぞ? せっかく初屋台なんだから記念にチャレンジとか」 「い、いいのいいの! あなたの『お手本』、超面白かったから! それが何よりの記念になる、ってワケ! ね!」 「まぁ、それでいいなら……」  屋台巡りも終盤、計画は既に失敗だ。そこはもう諦めている。  ――――だからこれは、僕の本心からのすすめだ。  だってあれだけ屋台を前のめりに楽しんでいた奴が、何の屋台も体験せずに帰るなんて寂しいじゃないか。  すげぇ笑ったり僕のことを煽ったりしていたあの姿からして、この時間が彼女にとって少なからず良いものだったんだとは思う。  ならやっぱり、何か彼女の『記念』として、何か残したい。  ――あ、あったわ。『記念』になるもの。 「まぁそれならそれでよし! 屋台の本質は楽しむこと! 当てくじに当たりが無かろうと、射的の的が台に固定されていようと、金魚すくいのアミに細工が施されていようと、楽しんだ者が優勝だ! うん!」 「あはは、まだ根に持ってたんだね~」 「と、言うことで! 優勝者には商品を授与しないとな!」 「――へ?」  僕は彼女にグッと近づき、手首から金魚の入ったビニール袋を外した。 「一番楽しんだのは君だ! 優勝おめでとう! 受け取れぇい!!!」 「――――や」  彼女の手首へビニール袋を掛けた――はずだった。  ――――――――ビシャ。 「え――――」
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