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薄明かりだけが灯された部屋のベッドに連れて行かれた私は、冷静にじっとセルヴィス様を観察する。
「陛下、本日はわざわざ離宮まで足をお運びくださり誠にありがとう存じます」
セルヴィス様はイザベラに何かを求めて来たはずだ。
そして、それは絶対に色欲によるものではないと断言できる。
こんな立派な後宮があり、セルヴィス様は選り取り見取り姫を選べる圧倒的に優位な立場にいるのだ。
うちの愚王ではあるまいし、わざわざ元敵国の女に手をつけ自ら火種を撒くようなタイプには見えない。
というわけで。
「で、そろそろ無駄な事はせず、本題に入りませんか?」
近づいてきたセルヴィス様の口に指先を当てた私はお戯れもほどほどに、とにっこり微笑む。
「無駄? 夫婦で契りを交わすのが、無駄だと?」
紺碧の瞳が楽しげな色を浮かべる。
「ええ、時間の無駄です」
私の身を暴きに来たのではないのでしょう? と尋ねればセルヴィス様は面白そうに私の話に耳を傾ける。
ああ、これは当たりだと確信した私は言葉を紡ぐ。
「だから黙認したのでしょう? 私に避妊薬が盛られるのを」
イザベラは戦争を仕掛けてきたクローゼアの姫、というだけでも印象は悪いだろうし、その上放置されていたはずなのに皇帝陛下のお渡りがある、なんてこの国の人からすれば面白いはずもない。
そして万が一、その一夜で子でもできたら新たな争いの火種になりかねない。
そう考えた女官の杜撰な犯行をセルヴィス様はあえて見逃したのだ。
「そんなに追い出したかったのですか? 後宮勤めの女官達を」
私は眉を釣り上げため息混じりにそう尋ねる。
セルヴィス様が私に求めたもの。それは彼にとって排除したい人間を正当な理由をつけて追い出すための囮としての役割。
「今なら証拠を押さえるのは簡単でしょう。私で遊んでいないで、早々に捕らえて暇でも出してはいかがです?」
淡々とした口調でそう告げた私に、
「……くっ、はははは。正解だ、イザベラ」
セルヴィス様はとても楽しそうにそして満足気に笑った。
腕が緩んだ隙に抜け出しベッドに腰掛けると、
「お褒め頂き、光栄ですわ」
うふふふふふっと小首を傾げて愛想笑いを浮かべつつ内心では盛大に舌打ちする。
「まぁ、でも妃を囮に使うなんてやり方が最低ですけどね♡」
イケメンなら何やっても許されると思うなよと私は心の声を顔面に貼り付けて笑顔で嫌味を添えてやった。
「ダメ押しで私の体液も調べます? 全量飲んだので、確実な証拠も出ると思いますよ」
ちなみにと、今日の私に避妊薬を盛れた人間の名前も上げる。
「……気づいたのに飲んだのか?」
私の言葉にセルヴィス様は驚いた顔をする。
「あら、この結果をご所望だったのではないのですか?」
私は涼やかな声でそう尋ねる。
使い魔からセルヴィス様がどれほど情報を取ったのかは分からないが、おそらく先日のチョコレートの一件で少なからず私に薬学の知識があるのではないかと踏んだのだろう。
でなければ、急にこの場を設けた理由が見当たらない。
王族や貴族が毒に対して身体を慣らしたり知識をつけることは不自然なことではない。
もし私が薬が盛られていることに気づいたなら飲まない、と思ったに違いない。
だから、私はあえて飲んだ。
「だって、この方が追求するとき確実でしょう?」
私は暴君王女の仮面をつけたイザベラに似せた表情を作り、口角を上げる。
王女イザベラならこんな時相手に主導権は絶対渡さない。
「さぁ、陛下。チェックを」
私は紺碧の瞳に手を差し出し述べ、そう言ってコールを促した。
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