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これを行ってきていいという了承と解釈した私は苦笑しながらセルヴィス様のカップにお茶を追加する。
「確かに陛下とこうしてお茶を飲んでる方がずっと気楽ではありますが」
実際、セルヴィス様と後宮で過ごす時間は心地よかった。
それは彼が私に無理強いをする事なく接してくれているからだと思う。
ここに来ている間、セルヴィス様がする事と言えば仕事の続きか、お茶を飲むか、時折戯れに私とゲームをする位で。
伽の相手を命じられることも、理不尽な要求を飲まされることも、罵りやあざけりを向けられることもない。
ただただ静かに私たちの間に落ちる沈黙は、私が当初想定していたよりもずっと穏やかな時間だった。
だから、余計思うのだ。このままではいけない、と。
「彼女たちのことをもう少し知りたいと思いまして」
帝国四家の令嬢が一同に集うお茶会。
これから先の立ち回りを考える上でも、彼女たちの情報が欲しい。
グレースが持ってきた招待状は、そういった意味でも今の私にとってかなり有益なものだった。
「四家の令嬢を、か?」
「ええ。だって、彼女たちは陛下の正妃候補ではありませんか?」
セルヴィス様との時間が心地いいからと言って、目的を忘れてはいけない。
私はここに、売国を目論んで乗り込んできたのだ。
「今後を思えば未来のファーストレディとお近づきになっておきたいと言う気持ちもありますし、今後後宮入りされる可能性が高い方達の人間性を直接見極めておきたいなぁと」
何せこの陛下は正妃選びに関心がない。
おかげでこんなに立派な後宮だというのに妃が人質である私ただ一人だ。
このままの状況だと売国どころか離縁すら難しい。
それでは困るのだ。
帝国に嫁いで4ヶ月。保証された遅延魔法の効果はすでに折り返し地点を過ぎている。こうしている間にも、時間は刻々と進み私の寿命は残り少なくなってきているのだから。
「……つまり、お前は俺の正妃を探しに行くつもりか」
紺碧の瞳は不機嫌そうに細められ、苦々しげに言葉を紡ぐ。
「俺は、イザベラを寵妃に任命したはずだが」
睨むような視線とセルヴィス様が纏う圧は初めて対峙した時のようで。
怖い、けれどそれだけではなく。
どこか寂しげにも見えた。
「ええ、確かに拝命承っております。ですが、陛下もおっしゃっていたでしょう?"偽物"は所詮"偽物"。そして私は"偽物"の寵妃です」
そろそろ本物を探さなくては、と私は静かに告げる。
カルディアの時も。
温室をもらった時も。
いつも思っていた。
国のために非情で冷酷な皇帝陛下の仮面を被らなくてはいけない優しいこの人を、幸せにしてくれる誰かがいてくれたらいいのに、と。
そして、それは偽物姫の私ではない。
「それに陛下が仰せになられたのではありませんか。私に"価値を示せ"と」
まだ不安定な帝国を一刻も早く御しやすい形に持っていくなら、やはり国内の有力貴族の後ろ盾を得る方がいい。
それも、今の均衡を崩さない形で。
この時間ももう直ぐ終わる。元々自分のモノではなかったのだ。
私はイザベラの偽物で。
その上偽物の寵妃。
いくら情をかけて頂いたとしても名残惜しい、なんて恐れ多くも思ってはいけない。
リープ病とは違う心臓の軋む音を無視した私は、
「お時間があるならぜひ陛下もいらしてくださいな。誰を選んでも大丈夫なように、上手くアシストしますから!」
ハーブティを飲み干して、場を閉めた。
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