33.偽物姫が弾き出した売国のための最適解。

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33.偽物姫が弾き出した売国のための最適解。

「そんな事より! 陛下はいつお見えになるのよ?」 「はい?」  それはどういう事か、とシエラの薔薇色の瞳を覗きながら、私は自分の指先の震えに気づく。 「まだ分からないなんて、おめでたいヒトね」  私はシエラの言葉を聞き流しながらそっと心拍数と脈を測り、自分の身体の状態を把握する。 「ここに集まった令嬢のほとんどは、あなたに会いたくて来たんじゃないわ。皇帝陛下が目的よ」  ふふん、と得意げにそう話すシエラを見返し、グレイスに視線を移せば、 「帝国では時期時期に合わせて大きな催しが庭園で企画され、そこで見初められた娘が後宮入りすることも珍しくないのです」  そう説明してくれる。 「ですが、現在の陛下は催しも側妃様の披露目もなさらないので、私達がお目にかかる機会もそうなくて……。イザベラ様が陛下のお気に入りである事は周知の事実ですし、もしかして会場にお越しになるのでは? ……なんて噂が実しやかに囁かれておりまして」  ややバツが悪そうなグレイスの表情を見て、これが集団お見合いの場になる事を少なからず期待されていたのだと知る。  それならばお茶会とは思えないほどの気合いの入れようも頷ける。 「ご気分を害されてしまったでしょうか?」  しゅん、と目を伏せるグレイスは儚く可愛いらしくて、そのいじらしさに女の私でさえ庇護欲を掻き立てられる。  そして、この手法を私は知っている。 『劇場型、っていうのよ』  それはイザベラが相手を陥れる時好んで使っていた方法。  イザベラの声と共に警告音が私の中で鳴り響く。 『そんなヒトに出会ったら、気をつけて。自分以外が主役になることを決して許さないから」  と。 「まぁ、そうでしたの」  状況を把握した私は、頬に手を当て悩ましげな表情をして見せる。  たかがお茶会。されどお茶会。これだけのギャラリーだ。  寵妃、と言われている私が赴く場に陛下が現れなければ、それだけで寵妃としての私の信頼はガタ落ち。  陛下が来ないように仕向けたと話しても、帝国の流儀を理解していないと叩かれる。  そして支持者の多いグレイスのお茶会で騒ぎを起こしてもアウト。  四家の令嬢であるグレイスがたかが敗戦国の姫をこれだけ丁重にもてなしたのに、恩を仇で返したと悪く言われるのは私の方。  その上毒まで盛って、脅してくる徹底ぶり。()がいなくなれば、セルヴィス様は妃を迎え入れなくてはならない。  つまり、私はこのテーブルに座った時点で罠にかかっていたわけだ。 「私、そんな事とはつゆ知らず……ごめんなさいね?」  誰の仕込みかは分からないけれど、見事な一手。  よほど私が邪魔らしい。  毒を盛られた事で私は偽物姫としての立場を思い出す。 (ああ、セルヴィス様の狙いはコレなのね。きっと)  めまいと呼吸の苦しさから身体は怠さを訴えるが、冷え冷えとした心と頭はむしろいつもより冷静に稼働していた。  私が本物の寵妃であったなら、詰みだっただろうけれど。 「私がお友達を作りたいから、と陛下にはご遠慮して頂いたの」  生憎と私はただの風除け(偽物の寵妃)。  囮なら得意分野だわ、と私は内心でつぶやく。
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