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34.偽物姫は叱られる。
コクンと、カップの中身を飲み込んだ時だった。
ざわっと会場が、色めき立ち一気に空気が変わる。
「……陛下」
どうして、セルヴィス様がここに? と思いかけ、私が誘ったのだったと思い出す。
絶対、来ないと思っていたのにと私の手が止まる。
「ベラ、遅くなってすまない」
普段の冷酷な皇帝陛下からは想像できないほど優しげなセルヴィス様の微笑みに被弾した方々から黄色い悲鳴が上がる。
寵妃の演技で甘やかされ慣れてしまっていたけれど、セルヴィス様はかなりの美丈夫だ。
自分でも女性に不自由したことがないって言っていたしなとどうでもいいことが頭を過ぎる。
「陛下、どうしてコチラに?」
まさか私が倒れる瞬間をわざわざ見届けにくるほど悪趣味だとは思いたくないけれど。と、やや冷めた気持ちで尋ねる私に。
「今日はベラが初めて参加する茶会だからな。来なくていいと言われたら、むしろ気になってしまうだろう?」
アドリブ効き過ぎじゃないですか、陛下。っていうかどこから見てたのと突っ込みたいのを我慢するしかない私。
セルヴィス様の思考が全く読めないのでキラキラ眩しいこの人をただ見返す事しかできない。
「まぁ、陛下ったら。相変わらず、過保護なんですから」
私は今からセルヴィス様が望んだ通り毒を飲んで倒れ、当たり屋よろしく四家に踏み込む大義名分を作るところだったのに。
このバカップルごっこをいつまで続けたらいいんだろうか? と想定外の事態に内心パニック状態だ。
それはどうやら私だけではないようで、四家の令嬢達も挨拶さえできずに固まっていた。
そんな私達を尻目に寵妃甘やかしモードのセルヴィス様は、私からひょいっとカップを取り上げると、
「ちょうど喉が乾いていた」
躊躇う事なく私の飲みかけのお茶、つまり毒入りのジャスミン茶を飲み干してしまった。
「陛下!!」
私が叫ぶのと、セルヴィス様がテーブルに片手を着いたのはほぼ同時。
「……何をしようとしていた」
ぞっとするほど冷たく重い威圧的な声。
その雰囲気に一瞬で会場が凍りつく。
「俺の妃に何を飲ませる気だった」
誰も答えられず、カタカタと震え真っ青の顔のまま俯いた令嬢たちを一瞥したセルヴィス様は、
「この場にいる者全員捕えろ」
連れて来た護衛に短く命じるとふわりと私を抱え上げ、
「帰るぞ」
そう言ってそのまま歩き出した。
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