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「何やってるんですか! あなたは」
我に返った私は降ろしてともがくがびくともしない。
それでも荒い呼吸や異常な速度の心拍数からセルヴィス様が間違いなく毒を飲んだことを知る。
「……それは俺のセリフだ」
降ろしてくれそうにないセルヴィス様の声は酷く不機嫌で。
「なんで、お前はいつもそうやって自分の身を軽く扱うんだ」
私に対して怒っているようだった。
「私は別にいいんです。慣れてるし。そもそも私を囮に使うって、そういう契約でしょ!? それにわざと毒を飲んだあなたに言われたくないっ!!」
求められた通り行動しただけなのに、理不尽に怒られる理由が分からない。
「とにかく、私の事は放っておいて大丈夫ですから! 早く陛下の処置を」
念の為催吐薬は持ってきた。胃の洗浄と解毒のためにすべき事はと捲し立てる私に、
「……死ぬ気、だったのか」
とセルヴィス様は硬い声で尋ねる。
「まさか。簡単に死にませんよ」
少なくとも帝国を出るまでは。
でなければ、イザベラと入れ替わるための機会を失くしてしまう。
「この手の毒に耐性があるんです。だから平気」
「平気なものかっ!」
セルヴィス様が、何にそんなに怒っているのか。
私には本気で分からなかった。
「毒に耐性があるってことは、耐性ができるほど毒を飲まされ続けたって事だろうが」
それは、幼少期からの私の日常で。
慣れなければ、私はとっくに死んでいた。
だから、別に悲しいことなんかじゃないのに。
「どうして、あなたが」
そんな悲しそうな顔をするの?
毒をまともに飲んだセルヴィス様の方が私なんかよりもずっと、苦しいはずなのに。
自分の事だけ考えて、契約妃なんか切り捨ててしまえばいいのに。
どうして、セルヴィス様は偽物の私なんかにこんな風に構うの?
「とにかく、早く戻るぞ」
暴れるな、とそう命じたセルヴィス様は結局私の処置が終わるまで側を離れる事はなく。
ずっと心配そうに私を見つめる紺碧の瞳を見ながら、まるで黒い狼みたいだなんてぼんやりそんなことを考えていた。
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