36.偽物姫は陛下の隠し事を知る。

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 人払いがされているのか、セルヴィス様の寝所やその周辺には誰もいなかった。  私は星の位置から方角を割出し、温室に向かって裸足のまま走る。  空には大きな満月が座していて、とても明るい夜だったから、迷う事なく辿り着けた。  私は調合器具を準備しながら、思考をまとめる。  もし、セルヴィス様が獣人だと仮定するなら、彼が迫害され宮殿から激戦地へと追い出されたのも合点がいく。  獣人は満月の影響を受け、その力を発揮した。だから彼らが攻め込んでくるのは常に満月の夜だったと文献で読んだことがある。  それを信じるなら、きっと今セルヴィス様の身体を苦しめているのはその獣人の力によるものだ。  ただでさえ犬科の生き物とジャスミン茶は相性が悪い。獣人の血に引っ張られた結果、さらに症状を悪化させてしまっている可能性が高い。  だとすれば、これを抑えられる薬は。 「きっと、コレなのでしょう」  私は図鑑をめくり古代文字が書き込まれた植物を見つける。  後宮の厄介ごとを解決していたという妃が残したヒントを手繰り寄せ、私はその植物の種をまく。  魔法の施された温室でそれは一瞬にして花を咲かせ、そして小さな実を一つだけつけた。  それはまるでイチゴのような形をしていた。  それを潰し成分を抽出したモノをセルヴィス様の部屋から拝借した聖水に落とし混ぜる。  星屑を閉じ込めたような煌めく液体は、その実の成分に反応し、淡い水色の液体に変化した。  聖水には魔法を緩和させる効果がある。  あまり怪我や病気とは無縁そうなセルヴィス様が万能薬と呼ばれる聖水を部屋に常備していたという事は多分、多少なりと症状緩和に効果があったのだ。その証拠に部屋には空瓶が落ちていた。  これで症状を抑えられたらと、完成させた薬を持って祈るような気持ちで私はセルヴィス様の部屋に戻った。
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