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これだけきっちりカーテンが引かれているのなら満月の光は入れない方がいいのかもしれない。
そう考えた私は真っ暗な部屋でカンテラに明かりを灯した。
小さな光だが、これでセルヴィス様の顔がよく見える。
精悍な顔が時折苦しげな表情を浮かべ、眉間に皺が寄る。
「陛下、どうかコレを」
小さく声をかけたけれどその目が開かれる事はなく、苦痛に耐えるように向こうを向いてしまった。
「……ヴィー。お願い、起きて」
私は黒い狼に話しかける時の口調で話しかけ、そっと背をさする。
こちらを向いた紺碧の瞳がゆっくり開く。だが、それは焦点を結ばずすぐに閉じた。
どうにか薬を用意したけれど、自力で飲んでくれそうにない。
「……ヴィー。お願い、よ」
この国に来てからずっとずっと心の支えになってくれていた黒い狼が、今こんなにも苦しんでいるのに、私は無力だ。
気持ちが落ちかけたところで、優しい紺碧の瞳が開き私を見て僅かに笑った気がした。
「嘆いても、状況は好転しない」
ぐっと瓶を握りしめた私は自分に言い聞かせる。
皇帝陛下の使い魔どころか本人をモフっていたのだ。不敬罪、じゃ足りないくらいきっともう沢山やらかしている。
今更罪状が一つ増えたってきっと私の待遇は変わらないだろう。
「ごめん、ね」
一応小さな声で謝ったあと、私は少量薬を口に含み、そのままセルヴィス様の口に流し込んだ。
小さく喉が動いたのを確認し、唇を離す。
その動作を何度も繰り返し、全量飲ませ終わってしばらくすると、セルヴィス様の呼吸は落ち着きを取り戻し、苦しげな表情を浮かべる事もなくなった。
もう大丈夫だ、と確信した途端身体から力が抜け、私はそのままベッドに倒れ込む。
「よかっ……た」
そうつぶやくと同時に睡魔が一気にやって来て、私はそのまま夢の中へと落ちて行った。
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