38.偽物姫と耐久レース。

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38.偽物姫と耐久レース。

 グレイスのお茶会騒動から数週間。  まだ宮廷内は落ち着かない。当然だ。名門四家の令嬢が開いたお茶会で皇帝陛下が毒を盛られたのだから。 「……というわけで、捕らえたほとんどの令嬢の事情聴取は済み現在は家に返している」  ……いや、正確に言えば毒は盛られたのではなく、この人が自ら進んで飲みに行ったんだけど。  何涼しい顔で現状報告してるのかしら、と食えない狼相手に私はため息を漏らす。 「……左様でございますか」  それよりも、だ。  私はセルヴィス様に気づかれないようにチラッとだけ視線を上げる。 「外野がうるさかったからな。いい牽制になった」  非常に真面目にお話してくださっている所申し訳ないのだが、話の内容が全く頭に入って来ない。  なぜならセルヴィス様の頭部には、ふわふわな狼の耳がついているから。 「はぁ、ソウデスカ」  と私は気のない返事を繰り返す。  早朝人払いのされた政務室に呼び出されドアを開けた瞬間吹き出さなかった自分を全力で褒めてあげたい。  それからかれこれもう1時間。ケモ耳について何の説明もなく今に至る。 「ああ。それで毒についてはイザベラの見立て通りで……」  もう、毒とかどうでもいいよ!  コレはアレかな? 皇帝陛下渾身のボケなのかな!?  ツッコミ待ちなの!?   でもコレ拾ったら絶対面倒事にしかならないやつ。  と平静を装っているが私の内心は忙し過ぎてツッコミが追いつかない状態だ。 「まぁ、事態が事態だからな。四家の内部調査もすでに開始している」  無論、全員コチラ側の配下の者でって、なんでこの人こんなにいつも通りのテンションなんだろうか?  頭にケモ耳生えてるくせにと、ギャップに悶えそうになる私。 「まぁ、さすが陛下。お仕事がお早いことで」  ぐっと堪えてにこっと微笑むが、表情筋が朝から過重労働で悲鳴をあげ始める。  多分、あの夜に私がセルヴィス様が獣人だと知ってしまったことに気づいている。  だけど、陛下が何も言わない以上全力スルーの方向で行こうと固く決めていた……はずなんだけど。 「機会は伺っていたからな」  あのぉ、超真面目な顔で耳を前後にピクピクさせないでもらえますか?   耳があるせいで嬉しさが隠しきれてないっ! 可愛いかっ!! 「……どうした、イザベラ?」  どうした、はコッチのセリフですが!?  ケモ耳で首を傾げるな。可愛いが過ぎる。  ダメだ。  陛下の(ボケ)が多過ぎて、どうするのが正解が分からない。  でも目を逸らしたらせっかく見えてない程でスルーしてきた今までの努力が無駄になる。  見るなぁ、見るんじゃない私。  アレはそう。ケモ耳なんかではなく、なんかこう……寝癖? 的なやつよ! と自分でもよく分からない言い訳を並べつつ、セルヴィス様からの攻撃をやり過ごす。
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